高架下の歌
前書き
好きなものを見せるって、
結構怖い。
笑われるかもしれないし、
否定されるかもしれないし、
「そんなの意味あるの?」
って言われるかもしれないから。
でも。
誰か一人でも、
本気で見てくれる人がいると、
少しだけ続けたくなったりする。
第14話です。
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第14話 高架下の歌
「今日、
ライブあるんだけど」
藍が言った。
事務所。
深夜一時。
木戸がカップ焼きそばをすすっている。
「誰の」
「友達」
「いるんだ友達」
「失礼すぎん?」
敦が少し笑う。
藍はスマホを見せた。
地下ライブハウス。
インディーズイベント。
出演者一覧。
その中に:
“KANAKO”
という名前があった。
木戸が首を傾げる。
「女?」
「男」
「紛らわしいな」
「本人もよく言われるって」
前原は煙草を咥える。
「どこだ」
「高架下の近く」
川本が嫌そうな顔をした。
「治安悪ぃとこじゃねぇか」
藍は笑う。
「だからだよ」
その言い方が、
少しだけ大人びていた。
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ライブハウスは狭かった。
階段を降りる。
湿った空気。
古いポスター。
煙草の匂い。
機材の低音。
敦は少し緊張していた。
こういう場所、
来たことがない。
木戸は周囲を見回す。
「なんか怖ぇな」
「お前が言うな」
川本が突っ込む。
グエンだけ妙にテンション高かった。
「オオーー!!」
「ライブ初めて?」
藍が聞く。
「ハイ!」
完全に遠足だった。
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ステージでは、
別のバンドが演奏していた。
爆音。
シャウト。
客は十数人。
でも、
みんな真剣だった。
敦は少し不思議だった。
売れてるわけじゃない。
有名でもない。
でも、
ちゃんと“好き”で来てる空気があった。
藍は壁にもたれながら言う。
「ここさ」
「うん」
「学校とか家より、
なんか息しやすいんだよね」
敦は少し黙った。
その感覚、
なんとなく分かる気がした。
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しばらくして。
ステージ転換。
マイクチェック。
ひとりの少年が出てくる。
短い髪。
大きめのTシャツ。
細い身体。
猫背。
眠そうな顔。
木戸が小声で言う。
「え、
あれ?」
藍が笑う。
「そう。
あれがKANAKO」
「陰キャじゃねぇか」
「普段マジあんな感じ」
少年――カナコは、
小さくマイクを握った。
客席を見ない。
ぼそっと言う。
「……お願いします」
拍手少し。
ギターが鳴る。
その瞬間だった。
空気が変わった。
カナコの声。
低くて、
少し掠れていて、
でも妙に真っ直ぐだった。
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「ちゃんとしろって
言われるたび
俺は少しずつ
黙っていった」
敦が止まる。
木戸も。
藍も。
歌詞が、
妙に刺さった。
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「普通になれって
笑うけど
普通って誰の形だ」
グエンは意味全部分からないはずなのに、
真剣に聴いていた。
前原だけが、
静かに煙草を吸っている。
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カナコは、
歌ってる時だけ別人だった。
声が出てる。
感情が出てる。
身体が前へ出てる。
敦は思った。
この人、
たぶん普段、
全然喋れない人だ。
でも。
歌だけは違う。
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曲が終わる。
拍手。
大きくはない。
でもちゃんと鳴っていた。
カナコは少し照れくさそうに頭を下げる。
「……ありがとうございました」
急にまた、
普通の人に戻った。
木戸が吹き出す。
「戻るの早ぇ」
藍が笑う。
「でしょ」
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ライブ後。
外。
高架下。
湿った夜風。
カナコは自販機の前で座っていた。
スポドリ。
汗だく。
藍が近づく。
「おつかれ」
「……あ」
カナコが少し目を逸らす。
藍は後ろを指差した。
「連れてきた」
カナコの顔が固まる。
「え」
敦たちを見る。
木戸が手を上げる。
「よっ」
「誰」
「知らない奴ら」
「雑」
藍が笑う。
カナコは困った顔をしていた。
完全に人見知りだった。
グエンだけ一直線に来る。
「ウタ、
スゴイ!!」
「うわっ」
「カッコイイ!」
カナコはさらに困惑した。
藍が笑う。
「グエン、
感情全部ストレートだから」
カナコは少し照れた。
「……どうも」
木戸が言う。
「歌ってる時とうるささ違いすぎだろ」
「うるさい」
「あ、喋った」
カナコはため息をついた。
でも、
少しだけ嬉しそうだった。
敦がなんとなく言う。
「歌詞、
良かったです」
カナコが止まる。
「……え」
「なんか……
分かる感じして」
カナコは少し黙った。
それから、
小さく笑う。
「……藍と似たこと言う」
藍がニヤッとする。
「でしょ?」
その時。
奈々恵がぼそっと言った。
「藍の世界観、
曲合いそう」
空気が止まる。
カナコが藍を見る。
藍も止まる。
「……え」
奈々恵は続ける。
「街とか、
空気とか、
ああいうの」
「音つきそう」
カナコは少し考えた。
それから。
「……あー」
と、
小さく頷いた。
「わかるかも」
藍が完全に固まる。
木戸がニヤニヤする。
「なんか始まりそうじゃん」
藍が即反応。
「始まんないし!」
でもその顔は、
少しだけ期待していた。
高架下を、
電車の音が通り過ぎていく。
その夜。
“居場所”だった場所は、
ほんの少しだけ、
“何かを作る場所”
へ近づき始めていた。
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後書き
第14話でした。
カナコは、
「歌ってる時だけ本音が出る人」
です。
そして、
藍の世界と、
少しずつ繋がり始めます。
ここから、
“創作サークル”の空気が、
少しずつ動いていきます。




