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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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14/105

高架下の歌

前書き


好きなものを見せるって、

結構怖い。


笑われるかもしれないし、

否定されるかもしれないし、

「そんなの意味あるの?」

って言われるかもしれないから。


でも。


誰か一人でも、

本気で見てくれる人がいると、

少しだけ続けたくなったりする。


第14話です。


⸻


第14話 高架下の歌


「今日、

 ライブあるんだけど」


藍が言った。


事務所。


深夜一時。


木戸がカップ焼きそばをすすっている。


「誰の」


「友達」


「いるんだ友達」


「失礼すぎん?」


敦が少し笑う。


藍はスマホを見せた。


地下ライブハウス。


インディーズイベント。


出演者一覧。


その中に:


“KANAKO”


という名前があった。


木戸が首を傾げる。


「女?」


「男」


「紛らわしいな」


「本人もよく言われるって」


前原は煙草を咥える。


「どこだ」


「高架下の近く」


川本が嫌そうな顔をした。


「治安悪ぃとこじゃねぇか」


藍は笑う。


「だからだよ」


その言い方が、

少しだけ大人びていた。


⸻


ライブハウスは狭かった。


階段を降りる。


湿った空気。


古いポスター。


煙草の匂い。


機材の低音。


敦は少し緊張していた。


こういう場所、

来たことがない。


木戸は周囲を見回す。


「なんか怖ぇな」


「お前が言うな」


川本が突っ込む。


グエンだけ妙にテンション高かった。


「オオーー!!」


「ライブ初めて?」


藍が聞く。


「ハイ!」


完全に遠足だった。


⸻


ステージでは、

別のバンドが演奏していた。


爆音。


シャウト。


客は十数人。


でも、

みんな真剣だった。


敦は少し不思議だった。


売れてるわけじゃない。


有名でもない。


でも、

ちゃんと“好き”で来てる空気があった。


藍は壁にもたれながら言う。


「ここさ」


「うん」


「学校とか家より、

 なんか息しやすいんだよね」


敦は少し黙った。


その感覚、

なんとなく分かる気がした。


⸻


しばらくして。


ステージ転換。


マイクチェック。


ひとりの少年が出てくる。


短い髪。


大きめのTシャツ。


細い身体。


猫背。


眠そうな顔。


木戸が小声で言う。


「え、

 あれ?」


藍が笑う。


「そう。

 あれがKANAKO」


「陰キャじゃねぇか」


「普段マジあんな感じ」


少年――カナコは、

小さくマイクを握った。


客席を見ない。


ぼそっと言う。


「……お願いします」


拍手少し。


ギターが鳴る。


その瞬間だった。


空気が変わった。


カナコの声。


低くて、

少し掠れていて、

でも妙に真っ直ぐだった。


⸻


「ちゃんとしろって

 言われるたび

 俺は少しずつ

 黙っていった」


敦が止まる。


木戸も。


藍も。


歌詞が、

妙に刺さった。


⸻


「普通になれって

 笑うけど

 普通って誰の形だ」


グエンは意味全部分からないはずなのに、

真剣に聴いていた。


前原だけが、

静かに煙草を吸っている。


⸻


カナコは、

歌ってる時だけ別人だった。


声が出てる。


感情が出てる。


身体が前へ出てる。


敦は思った。


この人、

たぶん普段、

全然喋れない人だ。


でも。


歌だけは違う。


⸻


曲が終わる。


拍手。


大きくはない。


でもちゃんと鳴っていた。


カナコは少し照れくさそうに頭を下げる。


「……ありがとうございました」


急にまた、

普通の人に戻った。


木戸が吹き出す。


「戻るの早ぇ」


藍が笑う。


「でしょ」


⸻


ライブ後。


外。


高架下。


湿った夜風。


カナコは自販機の前で座っていた。


スポドリ。


汗だく。


藍が近づく。


「おつかれ」


「……あ」


カナコが少し目を逸らす。


藍は後ろを指差した。


「連れてきた」


カナコの顔が固まる。


「え」


敦たちを見る。


木戸が手を上げる。


「よっ」


「誰」


「知らない奴ら」


「雑」


藍が笑う。


カナコは困った顔をしていた。


完全に人見知りだった。


グエンだけ一直線に来る。


「ウタ、

 スゴイ!!」


「うわっ」


「カッコイイ!」


カナコはさらに困惑した。


藍が笑う。


「グエン、

 感情全部ストレートだから」


カナコは少し照れた。


「……どうも」


木戸が言う。


「歌ってる時とうるささ違いすぎだろ」


「うるさい」


「あ、喋った」


カナコはため息をついた。


でも、

少しだけ嬉しそうだった。


敦がなんとなく言う。


「歌詞、

 良かったです」


カナコが止まる。


「……え」


「なんか……

 分かる感じして」


カナコは少し黙った。


それから、

小さく笑う。


「……藍と似たこと言う」


藍がニヤッとする。


「でしょ?」


その時。


奈々恵がぼそっと言った。


「藍の世界観、

 曲合いそう」


空気が止まる。


カナコが藍を見る。


藍も止まる。


「……え」


奈々恵は続ける。


「街とか、

 空気とか、

 ああいうの」


「音つきそう」


カナコは少し考えた。


それから。


「……あー」


と、

小さく頷いた。


「わかるかも」


藍が完全に固まる。


木戸がニヤニヤする。


「なんか始まりそうじゃん」


藍が即反応。


「始まんないし!」


でもその顔は、

少しだけ期待していた。


高架下を、

電車の音が通り過ぎていく。


その夜。


“居場所”だった場所は、

ほんの少しだけ、

“何かを作る場所”

へ近づき始めていた。


⸻


後書き


第14話でした。


カナコは、

「歌ってる時だけ本音が出る人」

です。


そして、

藍の世界と、

少しずつ繋がり始めます。


ここから、

“創作サークル”の空気が、

少しずつ動いていきます。

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