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WAY HOME ――行き場をなくした僕らの、小さな食卓――  作者: 和泉發仙


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13/105

作ってた人

前書き


人は、

「好きなもの」を語る時だけ、

少し子どもに戻る。


だからたぶん、

本当に大事なものほど、

隠してしまうのかもしれない。


第13話です。


⸻


第13話 作ってた人


雨はまだ降っていた。


コンビニの軒下。


藍は、

自分のノートを抱えたまま固まっていた。


奈々恵がページをめくっている。


かなり真剣に。


木戸が小声で敦へ聞く。


「……この人誰」


「知らないです」


「お前も知らねぇのかよ」


前原だけが煙草を咥えたまま言う。


「昔からこの辺いる」


「雑すぎません?」


奈々恵は聞いていない。


完全にノートへ集中していた。


藍が不安そうに言う。


「……そんな見る?」


奈々恵は小さく頷く。


「見る」


「なんで」


「気になるから」


即答だった。


藍は困惑していた。


たぶん今まで、

こういう反応をされたことがない。


「これ、

 どこから考えたの」


奈々恵が聞く。


藍は少し迷った。


「……夢」


「へぇ」


「あとゲームとか、

 映画とか、

 なんか色々混ざって」


奈々恵はまたページをめくる。


「この街、

 三層構造なんだ」


藍が顔を上げる。


「え」


「上層と下層で文化違うでしょ」


「……うん」


「で、

 真ん中の連中が一番中途半端」


藍は完全に止まった。


「……なんでそこまで分かるの」


奈々恵は少し笑った。


「設定好きだから」


木戸が覗き込む。


「うわマジだ。

 字めっちゃ細けぇ」


「読むな!」


藍が慌てる。


木戸は笑う。


「いやでもすげぇなこれ」


敦も頷いた。


「普通にゲーム作れそう」


藍はまた困った顔をした。


「……だからなんなのそれ」


「褒めてんだよ」


「いや分かるけど」


藍は視線を逸らした。


照れていた。


でも同時に、

どこか怖そうでもあった。


奈々恵はその顔を見ていた。


「……笑われると思った?」


藍が少し止まる。


数秒沈黙。


「……まぁ」


かなり小さい声だった。


雨音だけが聞こえる。


藍はノートを抱え直した。


「学校でもさ」


「なんか描いてると、

 “また始まった”みたいな感じだし」


「家でも、

 そんなの意味あるの?

 って言われるし」


「だから最近、

 あんま描いてなかった」


木戸が即答する。


「もったいな」


藍が少し驚く。


木戸は本気だった。


「だってお前、

 好きなんだろこれ」


「……まぁ」


「じゃあ描けばいいじゃん」


藍は苦笑いした。


「そんな簡単じゃないし」


その言い方。


敦には少し分かった。


好きなものって、

続けるほど怖くなる。


笑われるから。


比べられるから。


現実を見ろと言われるから。


奈々恵がぽつりと言う。


「昔、

 投稿してた」


全員が見る。


奈々恵は少し眠そうな顔のまま続けた。


「絵とか小説とか」


木戸が驚く。


「マジで?」


「昔のネット」


「掲示板とか、

 個人サイトとかの時代」


「うわ古っ」


「うるさい」


奈々恵は少し笑った。


「毎日描いてたよ」


「仕事しながら」


「寝ないでイベント行って」


「みんなで朝まで設定語って」


その時だけ、

奈々恵の目が少し若かった。


藍はじっと聞いていた。


「……じゃあ、

 なんでやめたの」


奈々恵は少し黙った。


コンビニの光が、

横顔を照らす。


「色々」


それだけだった。


でも、

その“色々”の重さは、

なんとなく伝わった。


「家のこととか」


「仕事とか」


「気づいたら、

 描かない方が普通になってた」


藍は何も言わなかった。


奈々恵は藍のノートを見る。


「だから分かる」


「え?」


「これ、

 頭の中でずっと育ててるやつだ」


藍の指が少し震えた。


たぶん。


誰かに、

そんなふうに言われたの、

初めてだった。


グエンが急に言う。


「ミタイ!」


「何を」


「ツヅキ!」


木戸も乗っかる。


「確かに」


「主人公どうなんの?」


藍が慌てる。


「え、

 いや、

 まだ途中だし……」


敦は少し笑った。


「でも気になるかも」


藍は完全に戸惑っていた。


笑われてない。


否定されてない。


むしろ、

続きを見たがってる。


それが信じられない顔だった。


その時、

前原が煙草を灰皿へ押しつけた。


「場所ならあるぞ」


全員が見る。


前原は椅子へ深く座った。


「描きたきゃ描け」


藍が小さく聞き返す。


「……ここで?」


「散らかさなきゃな」


木戸が笑う。


「基準ゆる」


前原は続けた。


「好きなもん作ってる時くらい、

 人間ちょっと元気になるからな」


部屋が少し静かになる。


藍はノートを抱えたまま、

しばらく何も言わなかった。


それから。


本当に小さく。


「……また持ってきてもいい?」


と聞いた。


前原は即答する。


「来るなら鍵閉めろ」


木戸が吹き出した。


「万能すぎんだろそのセリフ」


でも藍は、

少し笑っていた。


前より自然に。


前より、

ちゃんと。


そして奈々恵は、

そんな藍を静かに見ていた。


まるで、

昔の自分を見るみたいに。


⸻


後書き


第13話でした。


この回から、

“ただ集まるだけ”

だったものが、

少しずつ形を持ち始めます。


まだサークルではありません。


でも、

「誰かが作ったものを、

 誰かがちゃんと見る」


それだけで、

人は少し救われたりします。

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