ノートの中の街
前書き
好きなものって、
誰かに笑われると、
急に恥ずかしくなる。
だから人は、
途中から隠すようになる。
第12話です。
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第12話 ノートの中の街
雨だった。
コンビニの軒下に、
雨粒の音が響いている。
藍はスマホを見ながら、
小さくため息をついた。
「また雨」
木戸が肉まんを齧る。
「最近多いな」
「湿気ヤバいんだけど」
「髪?」
「全部」
敦は少し笑った。
藍は、
前より普通に喋るようになっていた。
まだ壁はある。
でも、
最初の頃みたいな、
“全部冗談で返す感じ”は少し減った。
グエンが傘を振りながら戻ってくる。
「サムイ!」
「お前その薄着やめろ」
川本が言う。
グエンは笑う。
「ダイジョブヨ」
絶対大丈夫じゃない。
藍が突然言った。
「……そういえばさ」
「ん?」
「グエンって、
なんでそんな日本好きなの」
グエンは少し考えた。
それから笑う。
「……ユメ!」
木戸が吹き出す。
「ざっくりしすぎだろ」
グエンは一生懸命続けた。
「アニメ!」
「ゲーム!」
「マンガ!」
「ニホン、
キラキラ!」
藍は少し笑った。
「今は?」
グエンは少し止まった。
それから肩をすくめる。
「……チョット、
チガッタ」
全員が少し黙る。
でもグエンは、
暗い顔ではなかった。
「デモ、
イマ、スキ」
そう言って笑った。
敦はその笑顔を見て、
少し不思議な気持ちになった。
この人、
嫌なこといっぱいあったはずなのに、
まだ好きって言えるんだなと思った。
その時だった。
藍のバッグから、
ノートが滑り落ちた。
バサッ。
地面に広がる紙。
「あっ」
藍が慌てる。
でも遅かった。
木戸が拾う。
「なんだこれ」
藍の顔色が変わった。
「ちょっ、
見るな!!」
木戸がページを開く。
そこには、
絵が描かれていた。
キャラクター。
街。
変な生き物。
剣。
建物。
そして、
びっしり書き込まれた設定。
木戸が止まる。
「……え」
敦も覗き込む。
「うわ」
グエンまで寄ってくる。
「オオ……!」
藍は真っ赤だった。
「返して!!」
木戸はページをめくる。
「ちょっと待て、
これ全部お前描いたの?」
「だから返せって!」
敦は思わず言った。
「……すごくないですかこれ」
藍が止まる。
たぶん、
予想してなかった。
笑われると思ってた顔だった。
木戸が真顔になる。
「いや普通に上手くね?」
「え」
「キャラめっちゃいるじゃん」
グエンが指差す。
「ドラゴン!」
「そこ反応すんのか」
でもグエンは本気だった。
「スゴイ!
ゲームミタイネ!!」
藍は困惑していた。
完全に。
「……え、
なにこれ」
木戸が首を傾げる。
「いやお前のノートだろ」
「そうじゃなくて」
藍は言葉に詰まる。
「なんで……
笑わないの」
その場が少し静かになる。
敦は、
その言葉が少し痛かった。
たぶんこの子、
今までずっと笑われてきたんだ。
「また変なの描いてる」
「厨二病?」
「そんなの意味ある?」
そういうのを、
何回も言われてきた。
木戸はページをめくる。
「いや普通に好きだわ俺」
「え」
「このデカい剣のやつ」
「……あ、
それ主人公」
「いいじゃん」
藍は完全に固まっていた。
グエンも興奮していた。
「アイ!
コレ、ナニ!?」
「え、
あー……
国みたいな」
「クニ!」
「あと、
この街と戦争してて……」
話しながら、
藍が少しずつ変わっていく。
声が自然になる。
目が動く。
敦は気づいた。
この子、
好きな話してる時、
全然違う。
木戸が笑う。
「めっちゃ喋るじゃん」
「うるさい!」
藍は少し照れた。
でも、
嬉しそうだった。
その時。
後ろから声。
「……続きある?」
全員が振り向く。
そこには、
コンビニ袋を持った女性が立っていた。
ジャージ。
ボサボサの髪。
眠そうな顔。
四十前後。
敦は見覚えがあった。
この辺でたまに見る人だ。
木戸が小声で言う。
「誰?」
前原だけが普通に言った。
「奈々恵か」
女は眠そうに手を上げた。
「……ども」
藍は少し警戒する。
奈々恵は、
藍のノートを見ていた。
かなり真剣な目だった。
「設定、
まだあるでしょ」
藍が止まる。
「……え」
奈々恵はゆっくり近づく。
ノートを見る。
ページをめくる。
沈黙。
それから、
小さく言った。
「これ、
“作ってる人”のノートだ」
藍は固まった。
奈々恵は続ける。
「世界の空気、
ちゃんと考えてる」
「街ごとに文化違うでしょ」
藍の目が大きくなる。
「……なんで分かるの」
奈々恵は少し笑った。
「昔、
似たようなことしてたから」
藍は何も言えなかった。
たぶん。
初めてだった。
“分かる人”
に会ったのが。
雨音だけが、
静かに響いていた。
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後書き
第12話でした。
ついに、
“創作側”の物語が動き始めました。
そして奈々恵。
この人は、
「終わったと思ってた側」
の人間です。
だからこそ、
藍やますみの“火”に気づける人になります。




