また来た
前書き
人って、
一回だけじゃ、
なかなか本音を出せない。
だから、
「また来た」が大事だったりする。
第11話です。
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第11話 また来た
「……また来た」
木戸が言った。
深夜のコンビニ前。
藍は少しムッとした顔をする。
「悪い?」
「いや別に」
木戸は肉まんを齧る。
「皆勤賞だなお前」
「アンタらもじゃん」
「確かに」
敦は少し笑った。
藍がここへ来るようになって、
数日が経っていた。
毎日ではない。
でも、
ふらっと現れる。
コンビニ。
ファミレス。
事務所の近く。
時間もバラバラ。
でも、
なぜか会う。
藍は今日もパーカー姿だった。
スマホを弄っている。
でも前みたいに、
ずっと画面だけを見ている感じではない。
少しだけ、
周囲を見るようになっていた。
グエンがコンビニ袋を抱えて戻ってくる。
「アイ!」
「うわっ」
「コレ」
差し出したのは、
辛いスナック菓子。
藍が少し笑う。
「また変なの買ってる」
「カライ、ウマイ!」
「胃壊すよ?」
「ダイジョブヨ」
全然大丈夫じゃなさそうだった。
川本が缶コーヒーを投げる。
「ほら敦」
「ありがとうございます」
藍がその様子を見る。
「……なんかさ」
「ん?」
「アンタらって、
いつもそんな感じなの?」
木戸が首を傾げる。
「どんな」
「なんか……
ダラダラしてる」
「悪口?」
「半分」
木戸は笑った。
「まぁダラダラしてんな」
前原は煙草を咥えたまま言う。
「働いてねぇ奴いるしな」
木戸が即反応する。
「俺を見るな」
「お前しかいねぇ」
「差別だ」
藍が少し吹き出した。
敦はその笑い方を見ていた。
前より自然だった。
まだ仮面はある。
でも、
少し薄くなっている。
その時。
藍のスマホが鳴った。
空気が少し変わる。
藍は画面を見る。
小さくため息。
「……母親?」
敦が聞くと、
藍は少し驚いた。
「なんで分かったの」
「顔」
「なにそれ」
藍は通話を切った。
すぐまた鳴る。
切る。
また鳴る。
木戸が小さく言う。
「しつけぇな」
藍は苦笑いした。
「最近ずっと」
「心配なんだろ」
敦が言う。
藍は少し黙った。
「……分かってる」
その言い方は、
ちょっとだけ苦しそうだった。
藍はスマホをポケットへ突っ込む。
「でもさ」
コンビニの光を見る。
「家帰ると、
息詰まるんだよね」
誰もすぐには返事しなかった。
藍は続ける。
「別に暴力とかじゃないし」
「ご飯もあるし」
「普通の家だし」
「でもなんか……
ずっと監視されてる感じ」
前原は静かに煙を吐いた。
藍は地面を見る。
「スマホ見てるだけで怒られるし」
「友達の話しても変な顔されるし」
「将来どうすんのって、
毎日言われるし」
木戸がぼそっと言う。
「しんど」
藍は笑った。
「でしょ」
でも、
その笑い方は少し弱かった。
敦はふと思った。
この子、
誰かに「それしんどいな」って、
ちゃんと言われたことなかったのかもしれない。
藍は急に話題を変えた。
「……ねぇ」
「ん?」
「アンタらって、
なんでここいんの?」
木戸が即答する。
「暇だから」
「説得力の塊だな」
藍が笑う。
川本は缶コーヒーを飲む。
「まぁ、
行く場所ねぇ奴らの集まりだよ」
「重っ」
「事実だろ」
グエンが手を挙げる。
「ワタシ、
イエ、ナイ」
「お前はガチなんだよ」
木戸が突っ込む。
少し笑いが起きる。
でも藍は、
その言葉を少し考えていた。
行く場所がない。
それはたぶん、
ホームレスとか、
そういう意味だけじゃない。
帰れるけど、
帰りたくない。
居場所があるけど、
安心できない。
そういう意味。
藍は小さく呟いた。
「……変なの」
前原が煙草を灰皿へ押しつける。
「今さらだろ」
その時。
敦が何気なく聞いた。
「藍って、
学校で何してたの」
藍は少し止まった。
「……別に」
「好きなこととか」
「ない」
即答。
でも敦には分かった。
嘘だ。
木戸も気づいていたらしい。
「絶対あるだろ」
「ないって」
「そういう言い方する奴、
だいたいなんか隠してる」
藍は顔をしかめる。
「ウザ」
「当たってんじゃん」
藍は少し黙った。
それから、
かなり小さい声で言った。
「……絵」
敦が聞き返す。
「え?」
「だから絵」
木戸がニヤッとする。
「あるじゃん」
「うるさい」
藍は少し恥ずかしそうだった。
グエンが反応する。
「エ!?」
「うわビックリした」
「アイ、エ、カク!?」
藍は戸惑った。
「まぁ……
ちょっとだけ」
グエンが嬉しそうに頷く。
「ワタシモ、スキ!」
「マジ?」
「アニメ!」
藍が少し笑う。
「そっちか」
でも、
その空気は悪くなかった。
敦はなんとなく思った。
たぶん、
こういうところから始まるんだ。
大したことじゃない会話。
でも、
誰にも言えなかった好きなもの。
そういう小さい話から、
人って少しずつ繋がっていくのかもしれない。
藍はスマホをしまった。
「……今日、
ちょっとだけ帰りやすいかも」
前原が言う。
「そういう日増やせ」
藍は少し驚いた顔をした。
前原は続ける。
「ゼロか百で考えると、
だいたい壊れる」
藍は静かに聞いていた。
夜風が吹く。
コンビニの光が、
それぞれの影を長く伸ばしていた。
そしてその夜。
藍は初めて、
自分から少しだけ笑った。




