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バグだらけの乙女ゲー、攻略無視して守護神様(狐)を解放して逃げることにする  作者: MIRICO


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40/43

20−2 正体

 いなくなるなんて、考えたくない。消えてしまうなんて、ありえない。

 失いたくないのだ。花奏の、大切で、大好きな人なのだから。


「青藍!!」


 バランスの取れない宇宙空間のように、暗闇の中で体が浮いた。

 視線の先に、暗闇から滲むように人の姿が現れた。ピンク色の髪が、暗闇から吐き出されたように見えた。

 その姿に、花奏は息が止まりそうになった。


「ローザ、ちゃん」


 どこからか現れたローザが、ふわりと浮いて、花奏を睨みつけた。その顔には、ひどい怒りが滲み出ていた。


『あんたのせいよ。あんたのせいで、この世界が壊れてしまう!』


 胸を押さえたローザは、苦しそうに叫んだ。くぐもった声で、何かを通して話しているみたいだ。


「どうなっているの、ローザちゃん。あなたが、この世界を作ったの!?」

『はっ。私が作った世界? ええ、そうよ。だからって、なんであんたがこの世界を壊すの! みんなが生きている世界なのに!』


 その言葉と同時、ローザの前に、力なく横たわるグルナディーヌが現れた。

 グルナディーヌだけではない。ブランドロワにノワール、ヴェールまでいる。意識はないのか、ぴくりとも動かない。


「彼らに何をしたの!?」

『あんたが壊したからでしょう!?』

「私が、この世界を壊したから……?」

『ほら、見なさいよ』


 ローザが指差す闇の中で、明るい場所が見えた。


「グルナちゃん?」


 グルナディーヌに似た少女が、ブレザーの制服を着て、防具のようなものを担いでいる。沈鬱な面持ちをして、広い玄関のある家に入ると、きつい目をした母親らしき女性に睨まれた。


『恥ずかしいわ。優勝もできないなんて』


 リビングに入れば、メガネをかけた父親らしき男性と、年上の男性二人が座って、グルナディーヌを横目で見る。


『当たり前のこともできないんだ。期待するだけ無駄だよ』

『模試だって、十位ぎりぎりだったんだ。恥ずかしいやつ』

『勉強もできずに剣道を続けて、それで優勝できないのか?』


 グルナディーヌは口を閉じたまま、やっとか細い声で、「ごめんなさい」と謝れば、母親らしき女性が、『本当に、私の娘なのかしらね』と鼻で笑うようにして言うと、四人は立ったままのグルナディーヌをそのままにして、別の会話に移った。


「うっ!」


 光が消えて、別の光が灯る。その中にいるのは、ブランドロワだ。

 彼もまた、グルナディーヌと同じ制服を着ていた。スーツ姿の年上の人々に囲まれて、笑顔で対応している。


『さすが、……の息子さんだ。あの若さで秘書見習いですからねえ。それに比べて、弟の方は』

『そろそろ捕まるんじゃないかって。マスコミがしつこいらしいですよ。ほら、あそこにも』


 ボソボソと話す男たちを横目に、カメラを持った男がブランドロワに近付いた。


『弟さんが暴れて騒ぎになったという話ですが、売り出し中アイドルのスキャンダルについて、一言お願いします!』


 ブランドロワは笑顔を崩さぬまま、やってきた年配の男性に気付いて頭を下げる。


『うちの息子は一人だけですよ。失礼します。--あれくらい、一人でなんとかできんのか? お前は私の跡継ぎなんだぞ? 弟と同じでは困る』


 ブランドロワは、「申し訳ありません」と頭を下げてから、その男のカバンを手にして、後を追った。


 再び暗闇になれば、灯りが灯る。


 次はノワールだ。部屋の中で猫に餌をやっている。そこに派手な女性がやってきた。


『ちょっと、酒くらい買っとけって言ったじゃない!』


 女性の言葉を無視すると、猫を抱き上げて部屋を出ていく。


『あんたは有名な政治家の息子なんだから、学校なんて行ってないで、同じくらい稼いできてよ!』


 中身の入った缶が投げられて、ノワールの頭に中身ごと当たった。ノワールは猫を玄関に放ると、側にあった椅子を女性に投げる。


『何すんのよ! あんたなんか産むんじゃなかった!』


 ノワールは猫を抱き上げると、「だったら産まなきゃよかっただろ。クソババア!」と叫んで外へ走り出した。そのノワールに、女性は何度も缶を投げつけていた。


 最後はヴェールだ。

 床には建築の本が散らばっていた。両親か、メガネをかけた男性がその本を蹴り上げた。女性がその後ろで、肩をびくりと揺らした。


『こんなものを集めて、受かったら芸大に行きたいだと!? いつそんな大学の願書なんて出したんだ! 医学部はどうした!』

『お父さんの言うとおりに、医大に行きなさいって言ったじゃない。どうしてお父さんのようにしないの?』

『芸大なんて、恥ずかしい! おい、待ちなさい!』


 ヴェールはカバンを放り投げて、二人に背を向ける。「恥はそっちだろう」と呟いて、玄関を飛び出した。


「どうなってるの……?」

『みんな、逃げたのよ』


 耳元にローザの声が聞こえて、花奏は仰け反った。その勢いで、後ろにくるりと回転する。バランスが取れなくて、ローザがどこに行ったのかわからない。姿を消したローザは、今度は花奏の目の前に現れた。


『みんな、嫌になっちゃったの。だから、私が、役目を与えてあげた』

「何言って……っ!」


 ローザが花奏を押しやった。ローザから離れると、ローザの足元に、グルナディーヌたちが目を瞑ったまま、ふわりと浮いて集まってくる。


『グルナディーヌの家族、全員、頭いいんだって。一位じゃなきゃ意味ないって言われ続けて、そればっか口にしてたら、今度は周囲から、嫌味? ってやっかまれるの。かわいそー。それで嫌がらせを受けて……』


 ローザはプールにでも飛び込む動きをする。


『ブランドロワは逆ね。親から期待されて、疲れちゃったの。弟は出来悪くて、不祥事起こさないように見張らなきゃだし、マスコミに追われて、疲れ切っちゃったのよ。だから、弟を注意したら……』


 今度はお腹を押さえて、両手を見る仕草をする。そのまま倒れ込んで、頭を下ろしたまま、くすくすと笑った。


『ノワールは母子家庭なの。前にも言ったでしょ。腹違いの弟なのよ。ブランドロワと父親がネットに出ると、恨めしくなるのね。それで非行に走っちゃうの。でも、飼い猫を雑に扱われて、殴り合いになり……』


 ローザはひっくり返った。仰向けになって苦しそうに息を吐く。


『うふふ。ヴェールはね、やりたいことがあるのに、やらせてもらえなかったのよ。いつも父親のようになれって言われ続けたの。それで耐えられなくなって』


 ローザは自分の首を絞めて、上目遣いにして舌を出した。


 それを見続けていて、花奏はずっと寒気しかしなかった。ローザが何を言っているのか、理解したくないのに、理解してしまう。


「じゃあ、青藍は……? 青藍も?」


 青藍も、何かに悩み、この世界に来たのか?

 それなのに、あの神社で一人。花奏が行かなければ、孤独のまま庭にすら出られない。


 花奏をいつもお茶菓子で迎えてくれる青藍。もふもふの尻尾を抱きしめれば、顔をしかめて、花奏に怒って、呆れて、笑って、外に出られたことに、涙して。

 そのすべてが、許されることはなかった。


「あなたが青藍を閉じ込めたの!?」

『はは、閉じ込めた? だって、青藍は、いつもそこにいたんだもの。そこがいいに決まってるじゃない!』

「どういう意味……」

『だから、私が、役目を与えてあげた。ここにいれば、悩まないで済むでしょう? 役目を壊そうとしないで。私の世界よ! だから、あんたは邪魔だわ!』


 ローザの叫びと同時、再び周囲が迷路の部屋に変わった。先ほどよりも蜘蛛が集まっている。

 だが、その草の生える床には、グルナディーヌたちがいた。


「グルナちゃん、起きて! ブラン先輩、ノワール君、ヴェール君!」


 花奏は一番近くに倒れていた ノワールを揺さぶった。


「花奏……? 何やって、ここは? どうなってるんだよ!?」

「ノワール君! みんなを起こして!」

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