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バグだらけの乙女ゲー、攻略無視して守護神様(狐)を解放して逃げることにする  作者: MIRICO


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38/43

19 修正

「青藍! 青藍!!」

「どうした。今度は何を大声出して、……何があった」

「青藍、変なことが起きたの!」


 花奏は今起きたことを口早に説明する。すると、青藍の顔がスッと青ざめた。

 口を結び、口元を覆った姿は、何が起きているのか理解していた。


「青藍、何を知っているの」

「それは、……」


 口を何度か開け閉めして、話そうとしながらしかし口を閉じる。

 話せないのか、話したくないのか、いや、話せないのだ。

 制約。青藍が外に出られない理由と同じ。

 ならば、花奏がわかっていることを話すしかない。


「あの黒い虫は、この世界のバグを修正する、システムの一部なんじゃないかな。だから再構築されちゃうの。虫に覆われたグルナちゃんとブラン先輩が、記憶を失ったのもそのせい」


 この乙女ゲーはやはりおかしい。設定は曖昧で、ベータ版のように不完全。だが、再構築が行われる。


「設定は素人で、でも世界観は壊したくないみたい」


 こだわりがあるくせに、設定が曖昧だ。だが、修正が必要なところは修正してくる。二人が修正プログラムで記憶を消されたのならば、説明がついた。

 図書室を修正したのは、花奏のせいだろうか。白紙のページを見つけてしまった。不完全さを指摘したから。


 グルナディーヌとブランドロワの記憶を修正したのは、何のためなのか。それはわからないが、急に不安が押し寄せてきた。学園を卒業したとしても、クリアになるのか? クリアしたとしても、その後、残ったキャラクターたちはどうなるのだろう。


「この世界って、めちゃくちゃ不安定なんじゃ」


 青藍は顔色悪く、沈黙したまま。その姿は肯定でしかなかった。


「でも、青藍、不安定ってことは、外に出れるってことだよ? あの黒い虫にくっつかれないようにすれば、あの虫が再構築しなければ、出られるってこと。むしろ、この世界を壊した方がいいんじゃないかな?」


 無言で聞いていた青藍が、眉尻を下げた。

 青藍は前に、この世界を壊す気かと、大声を上げた。そんなことはしてはいけないと言わんばかりに、怒鳴り声を出した。けれど、今は違う。花奏の目をじっと見つめて、口を閉じたまま。その後の答えを知っているかのように、目を赤くした。


 泣きそうな顔。それが、何を想像してそんな顔をしているかわからない。その顔を見るだけで、苦しくなってくる。彼の苦しみが胸を締め付けた。


 だが、止めないのならば、それが正解だ。

 早く、彼を外に出してあげるのだ。


「よし、システムの裏をかこう! 何がいいかな。そうだ、まずは私の寮のメイドさんがいる扉、開けてくる!」

「おい!」


 思いついたが吉日。花奏は部屋を飛び出した。

 普段は鍵がかかって入れないが、給餌の際に出入りする扉。花奏が入ろうとすれば、メイドが邪魔をする、扉の中。その先には何があるのだろう。設定されていない部屋に入り込んだら、システムのバグが起きるに違いない。

 もしかしたら、本殿のように、おかしなループに陥るかもしれない。開いた扉の先が、入ってきた部屋に通じたりするかもしれない。


「危険な真似をするな!」

「私はこの世界のキャラじゃないから、大丈夫だよ!」

「花奏!!」


 青藍は本殿から出ようとする花奏の手を引いた。しかし、花奏はその手を振り払うことなく、むしろ青藍を引っ張った。

 その瞬間、ビキリ、とガラスが割れるような音がした。


 本殿の出入り口、何もない空間から、小さなカケラがパラリこぼれ落ちた。

 青藍はまだ出ていない。本殿の中だ。けれど、花奏の手を握った、その手が、空間にぶつかっていた。


「青藍……、これ」


 青藍を仰げば、困惑しながらも花奏に視線を合わせる。

 花奏は青藍の手を握りしめる。その手をゆっくり引っ張った。その瞬間、まばゆい光が通り過ぎた。


 足先が何もない空間に当たり、ヒビが入る。青藍はそのまま建物から指先を出した。

 ひび割れた空間が、強化ガラスが落ちたように、バラバラと崩れて散らばると、転がりながら透明になって消えていった。


 足袋のまま、足先が石段に降り立つ。膝を曲げる格好で、青藍はもう片方の足を下ろした。

 体が完全に本殿から離れる。花奏が両手を引けば、青藍は今までいた本殿に振り向いた。


「……青藍。出られたよ。出られたよ!」


 青藍の体は、本殿から完全に離れて、屋根の下からも離れ、地面に足をついている。


「あとは杜を越えて、鳥居から出られるかじゃない!?」


 青藍は呆然としたまま、花奏の手に引っ張られて、足を進める。

 拝殿の横を通り過ぎて、参道を進み、二の鳥居をくぐって、鎮守の杜に囲まれた長い階段を降りていく。

 杜の中はシンと静まり、風一つなく、天井を覆う木々から光は見えない。

 しかし、階段の先に、一の鳥居が見えてきた。


 あと少し、もう少し。

 短い参道を抜けて、一の大鳥居をゆっくりとくぐった。

 青藍は空を見上げた。杜を抜けた空は、浅い青に染まっている。青藍の髪の色のようだ。


 目尻から、宝石のような雫がこぼれ落ちる。


「青藍、おめでとう!」


 花奏は両手を広げた。青藍の身体を余すことなく包むつもりで、しっかりと抱きしめてやる。青藍はそれに応えるように、花奏の背に両手を伸ばした。


 青藍の温もりが、腕に、背中に、しびれるように伝ってくる。その喜びは、花奏の中に入って、大きく膨らんだ。

 青藍の涙が、頬に触れる。その涙ごと、包み込んであげたくなった。


 この気持ちを、ずっと見ないふりをしていた。


 ああ、そうか。

 青藍が好きなんだ。


 青藍が笑っている。その笑顔が、彼のすべてが、こんなにも愛しかった。

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