18 祭典
桜のような花が咲き、花びらが舞う。学年関係なく、女神の像の周囲を囲むように、皆でお弁当を食べる。
そんな、どこかで見たことのある風景が広がっていた。
「お花見……?」
「女神様を祝う、この時期にだけ咲く花よ」
こじつけすぎる。グルナディーヌの説明に舌打ちしそうになりながら、花奏はグルナディーヌに抱きついた。
「おかえり、グルナちゃん!」
「きゃっ、いきなり抱きつかないでくださる!?」
「寂しかったよー! ずっとお城に住むのかと思ってたーっ!」
「そんなわけありませんわ。離しなさいな!」
グルナディーヌは素っ気ない。だが、元気そうで何よりだ。小さな声で、心配をかけたことは謝るわ、なんてデレてくれたので、もう一度抱きついておく。
「いちゃついてるなあ」
「気持ち悪いんだが」
ノワールとヴェールに突っ込まれ、始まった、女神の祭典。学年も何も関係なく、しれっとブランドロワも混ざっている。
本日は授業もなく、いきなり弁当タイムである。朝食を食べてきたのに、なぜすぐに弁当?
花見形式なので、シートが敷かれており、靴のままそこに座る。足はシートから出ているからいいのか、そこで靴を脱がないのは乙女ゲーだからか。靴を脱ごうとしたらグルナディーヌに、はしたない! と怒られたので、靴は履きっぱなしだ。
各々弁当という名の、アフタヌーンティーのような軽食を並べさせた。シェフやメイドが運んできているのだ。
「乙女ゲーっぽすぎる」
シェフに作らせたというお弁当は、サンドイッチやチキン。焼き菓子であったり、一口サイズのケーキであったりと、間違っても和食ではない。
「グルナちゃんも作ってもらったの? お城のシェフさん?」
「寮のシェフですわ」
花奏が青藍のところに泊まっている間、寮に戻ってきており、シェフに作らせたそうだ。
寮のシェフ。やはりいる設定なのか。
グルナディーヌと花奏が住む寮は、朝起きてリビングに行くとジュースやパンなどが用意されており、シェフは見たことがない。時間になるといつの間にか置いてあるシステムだ。
NPCのメイドはいるが、会話はままならない。ジュースのおかわりはどうですか? とかしか言わない。花奏が食べたものを片付けようとすると、行かせまいと邪魔をしてくる。
扉の向こうにキッチンがあると思うのだが、メイドが芋って扉の前からどかないのだ。
乙女ゲーの設定外のため、きっと何もない空間なのだろう。無理に入ったら、バグりそうでならない。虚無の世界に落ちるとかありそうで恐ろしい。
しかし、グルナディーヌはシェフに作らせたと言う。そこも教科書が白かったのと同じで、彼らにはシェフが存在しているのだ。そう納得するしかない。
「あんたは、弁当作ってきたの?」
「きたよ。ちゃんと。頑張った。早く起きて、頑張った!」
「へえ、重箱だし」
「まあ、素敵だわ」
「綺麗だね」
「すごいな」
ノワールは見直した、と言い、グルナディーヌは、器用だったのね、と驚きを見せ、ブランドロワは、シェフより手が凝っているね、と褒めてくれ、ヴェールは、本に載っていたのか? と若干疑いの目を向けつつも、うまそうだな、と言ってくれた。
きっと全員いるのだろうな。と思い、重箱におせち風に詰めてきたのだ。乙女ゲーならばと、想像していたのが当たった。
プチケーキふうの、ひな祭りのような酢飯。具材でデコレーションし、色とりどりである。青藍も褒めてくれた。お弁当には必須の鶏の唐揚げ、つくねやウィンナーなどの肉類に、定番卵焼きやレンコンなどの炒め物、などなど、盛りだくさんだ。
「頑張ったー。私、頑張ったー。守護神に手伝ってもらって、朝早くから頑張った!」
小さめの重箱を使い、青藍用も置いてきた。青藍は自分の分もあるとは思わなかったか、驚きながらもうれしそうにしていた。喜んでくれた姿を見ると、こちらもうれしくなる。
ちゃんと食べてくれるとうれしいなあ。
「守護神様と作ったですって?」
「キッチン使っていいって。手伝ってもらったの」
グルナディーヌが目を見開いている横で、ブランドロワが困惑した顔を見せてくる。ヴェールは、本当に手伝ってもらったのか、と脱力したように言った。
「まあ、いいんじゃない。手伝ってくれたんなら。食べていー?」
「どうぞー。お箸はここに」
箸の他にカトラリーも用意してあるが、ノワールは箸が扱えると、酢飯を取った。寿司のように硬めにして、海苔や卵などで巻いてあるので、箸でも崩れにくいだろうが、慣れていなければ崩れてしまうかもしれない。
そんな心配はよそにして、ノワールは箸でぱくりと、桜でんぷんといくら、レンコンが乗ったそれを口に入れた。
「あー、うまー。酢飯だ。普通にうまいじゃん」
その声に促されるように、みんなが食べ始める。
「おいしいわ。優しい味ね」
グルナディーヌは噛み締めるように、煮物の大根を口にする。こちらで醤油を見ていないので口に合うかわからなかったが、煮物は好評らしく、ブランドロワはこんにゃくを口にして頷いている。
洋食でこんにゃくは出ないので、食感が気になるかと思ったが、それも問題ないようだった。
ヴェールはサーモンの副菜に舌鼓を打っていた。酢の物も気にならないと、二つ目に箸を伸ばす。
「とてもおいしいわ。なんだか、懐かしさを感じる」
「そうだね。なぜこんな料理を食べてこなかったのだろう」
日本食が出てこない乙女ゲーだが、制作者が日本人だから、和食が懐かしくなるのだろうか。
ノワールは食べたことはあるようだが、キャラが本音を言いすぎでは?
グルナディーヌとブランドロワは、微笑み合いながら食事を進める。
気のせいかな、雰囲気が良いように思う。ここは邪魔しないようにしようと、花奏はサンドイッチを口にした。
昨日の夜から自分の料理を食べているせいか、サンドイッチは味気ない。ハムや卵が入っているサンドイッチだが、パンチが効いていないのだ。カラシなどぬったり、野菜を入れればもっとおいしいのに。
こちらは極端に野菜が少ない。出てきてミニトマトとレタス、ブロッコリー。煮込み料理には肉ばかりで、色目に使っているようなにんじんのみ。野菜嫌いのメニューのようだ。
花奏も子供の頃は野菜嫌いだったらしいが、今は野菜の方がよく食べる。
「決めたわ」
グルナディーヌがいきなり顔を上げた。
「迷っていたけれど、剣を続けるわ!」
突然どうした。誰かアルコールでも持ってきたのか?
昨夜のカレーにはワインを入れたが、弁当には入れていない。いや、煮物に料理酒は入っているか。
「グルナちゃん、アルコールアレルギーとか……」
「これ、とてもおいしいわ!」
グルナディーヌは料理酒で酔ったか、ほうれん草の胡麻和えを口にした。
「あ、それにも料理酒が!」
盲点だった。人にお弁当を作るのに、アレルギーを気にしていなかった。
煮物の酒成分は飛んでいると思うが、胡麻和えは料理酒がしっかり入っている。
「あ、あ、やめた方が」
花奏が食べるのを止めようとすると、隣でブランドロワが大丈夫だと、笑ってグルナディーヌを見つめる。
よもや、ブランドロワも料理酒で酔ったのでは?
グルナディーヌを見つめるその視線が、やけに熱っぽい。いい雰囲気だとは思ったが、進みが早いように思う。
「俺も、進む先は自分で決めたい」
「ヴェール君もアルコール弱いの!?」
二人とも夢を語り出し、その間に挟まったブランドロワは、微笑ましいと話を聞いている。
どう見ても酔っ払いの集い。料理酒の度数が高かったとか? 料理酒の度数って高くなるものなのか?




