15−3 女神
「私は守護神にも作ってあげたいしー、なんなら一緒に作りたいんだけど」
一緒にお料理。絶対に楽しい。青藍は嫌がるだろうか。時間を共にするならば、同じことを共にするのも楽しいと思うのだ。
うふふ。と一人妄想の中にいると、ヴェールはゲテモノでも見る目で花奏を見ていた。
「図々しく、型破りだな」
ストレートな悪口が飛んできた。
「守護神様に、料理を手伝わせる? どうやったらそんなことが思い付くんだ?」
「キッチン使わせてくれるって言ってたしー、神社だってキッチンくらいあるよ。社務所だろうけど」
「言ってる意味がわからん。守護神様に不敬すぎるって話をしてるんだよ」
「そう? 青藍は気にせず手伝ってくれると思うけど」
「守護神様を呼び捨てているのか!?」
「怒られたことはないよ?」
いや、何度か怒られているか。だが、呼び捨てで怒られたことはなかった。
ヴェールは胡散臭いものでも見るように、大きく顔をしかめてくる。
「ほら、これでも読んだらどうだ?」
渡されたのは、本当にお弁当の本だった。しかも図解入りで日本語である。
乙女ゲーのイベントらしく、お弁当の本が常備されているのだ。これを見付ければ、攻略の確率が上がるとか?
軽く確認してみると、花奏はしょんぼりした。花奏でも作り方がわかるようなものしか書かれていない。飾り付けの仕方や、キャラ弁の作り方が載っているだけだ。キャラ弁は何のキャラかと言うと、守護神ぱぺをモチーフにしてあった。こういうところは細かく作られているのか。
「あと、女神様の本って、あるかなあ」
「女神様? そういった本は、ないと思うが……」
「女神様の本、ないの?」
そこまで考えられてないのか。ならば、なぜ女神の像があるのだ。そもそも女神とはなんなのだろう。
「その辺に料理の本はあるから、探してみたらどうだ?」
「ありがとう、ヴェール君」
他の本と言っても、背表紙は相変わらずよくわからない、ミミズののたくった字だ。読めない。手に取ってみれば、白紙である。そんなものだと息をついて帰ろうとすると、本棚の影からローザが顔を出してきた。
「あれ、何してるの? もしかして、料理の本探してる?」
「ローザちゃんも料理作るの?」
「もちろん。だってせっかくみんなでお弁当食べるんだもん。手作りがいいよね」
ローザも手作りとなると、もしグルナディーヌがいたら、彼女も手作りだっただろうか。寮にキッチンがあれば、二人で作ることもあったかもしれない。残念だ。
そのおかげというのもなんだが、青藍との時間もできたのだし、その時間は楽しみでもある。
そんなことを考えると、頬が緩んで勝手に上がった。いきなりニヤケ顔になってしまったのを、料理本で隠す。
青藍といるのは楽しい。それがなぜなのかわからないが、花奏にとって居心地のいい場所だ。
ふんわりと、温かくなる気がする。
だがそれがなぜなのかは、まだはっきりしていない。
「ねえ、何を作るの?」
「まだ決まってないよ。本見て考えようかなって」
「じゃあ、一緒に作ろうよ!」
「あ、ごめん。先約があって」
せっかくローザが誘ってくれたが、青藍との約束は破りたくない。青藍は気にするなと言いそうだが、あんなにうれしそうだったのに、今さら別の子と作ることになったなんて言いたくなかった。青藍は顔には出さなくても、がっかりするだろう。
「それって、グルナディーヌ様? お休みしているんじゃないの?」
「ううん、守護神と作る約束してるんだ」
「守護神様?」
ローザの声音が鋭いものになった。
眉を顰めて、顔を歪める。花奏への嫌悪を隠さず、顔に出した。
そこまで不敬なことなのか。だとしても、青藍は嫌がっていない。
「守護神様と作るなんて、おかしいよ」
「守護神が許してくれたから、大丈夫だよ」
「信じられない。守護神様は見守ってくれるけど、手伝ってはくれないよ」
否定されても、青藍は違う。しかし、これを理解してもらうのは、この世界のルールでは難しいのだろう。花奏は曖昧にして苦笑いをした。
「ローザちゃんは、守護神のお屋敷には入らないの?」
「守護神様のお屋敷に入る? あり得ないよ。恐れ多いもん!」
これは話が通じそうにない。
「ローザちゃんちの守護神って、どんな感じなの?」
「守護神様は守護神様だよ。顔なんて見せない。姿だって見せない。守護神様だもの」
ローザの場合は、そうなるのか。
ならば、花奏だけに、青藍のような守護神がいるのだろう。
主人公? の特権なのかもしれない。
「守護神様は見守るだけだよ。手伝ったりなんてしない!」
ローザは言い切って、憎しみを持ったように花奏を睨みつけた。
「あなたって、変だよね!」
「あ、ちょっと。ああ、行っちゃった」
ローザは怒ったように去っていってしまった。
守護神への敬意がそうさせるのか、ローザが一番守護神について厳格だ。
「青藍に会えばわかるだろうけど、青藍には会えないんだもんね」
今ので、嫌われたかもしれない。
ローザは守護神に対して絶対のルールがあるのだろうが、なぜあそこまで強固なのだろう。キャラによって、教えの違いでもあるのだろうか。
だが、あまりにも憎しみを込めた目だった。あの顔は身震いしそうになる。
まいったな、とため息をつけば、ふわりと目端に何かがうつった。
本棚の隅に、黒いものが落ちてきた。ふわりと別の場所にも落ちてくる。
ほこりのような、虫のような。花奏は目の前に落ちてきたそれを、バチンと叩いた。
「あれ、外した」
叩いたような気がしたのに、逃げられてしまった。ほこりではなく虫だったようだ。
花奏はもう一度ため息をついて歩き出す。
ヴェールももう帰ったようだ。司書も誰もいないカウンターを横目にして、結局何も借りず、花奏はその場を後にした。




