14−2 守護神
「本になってるんなら、いいんじゃない? 神社の本なんて、普通にあるよ。どの神社に、どんな神様がいるのか載ってる本とかあるし」
「神? 守護神様以外の神か? それは女神様のことだろう? 日本国では女神様を祀っているのか?」
問われて、頭の中にはてなマークが浮かんでしまった。
話が通じていない気がする。
女神というのは、王立学園にあるあの像のことだろう。
この世界は守護神がいるのに、神にカウントしていない。女神という一神教ということなのか?
「神様なんて、どの国にだっているし、国によって神の種類もいろいろでしょ? 日本なんて八百万だよ」
「俺の世界にはいない。いるわけないだろう。女神様は一人だ」
「ちょっと待って、ヴェール君の国に、神がいないってこと?」
「当然だろう。女神様は一人だ」
つまり、王立学園がにいる女神が、唯一の神ということになるのか。多くの国からやってきた生徒たち、という設定なのに、その国々に神はいないと言う。
守護神は換算していないことから、守護神という名のキャラ設定なのかもしれない。
バグというより、設定ミスと言うべきか。そこまで設定されていないと言うべきか。
指摘すれば指摘するほど、杜撰さが見えてくる。
「なら、これが守護神様の建物ならば、いつもこの建物を見ているんだな」
ヴェールはうらやましそうな顔をしてくる。別に気にせず、神社の境内に入れば良いのでは? と言いそうになって、口を閉じた。守護神は一人につき一神。境内には入れないのかもしれない。
「この建物は、どうやって作られているんだろうか」
ヴェールは神についてはどうでもいいと、再び建物について話し始める。前も建築系の本を見ていた気がした。
「こういう建物って、釘とか使わないで木組みだけなんだって。彫刻とかは、昔のすっごい有名な人が作ってたりするんだよ。国の指定遺産だったりとかー」
詳しく知らないので、誰でも知っていそうな情報を説明したが、ヴェールが目を輝かせた。
普段のクールぶりはなく、興味津々と花奏の言葉を耳にしている。好きな物へのその探究心が垣間見られた。
「建築家にでもなりたいの?」
「建築家……?」
乙女ゲーで建築家がないのか。ヴェールはわかっていないような、困惑の顔を見せてくる。
「親が反対してるとか?」
「……わからない」
ヴェールはどこを見ているのか、虚ろな目をした。
なんだか、バグりそうだな。と思ってしまうのは、視線を泳がせ始めたからだろうか。視線が定まらないのだ。
答えがわからず不安になるような顔をしてきて、花奏も不安になってきた。
NPCならまだしも、主要キャラまでバグるのだろうか。今までちゃんと受け答えをしていたのに。
ヴェールは答えられないまま、何かを考えるように俯いてしまった。
「ヴェール君?」
「俺は、役目が、決まっているから」
また役目。なんだかその役目に取り憑かれているみたいだ。
「ヴェール君の役目って、治療士だよね。でも、建築系に興味あるんでしょ? 勉強したいならすればいいと思うけど。学校いる間にいろんなこと調べて。本当に好きだったら、勉強もすいすいできちゃうんじゃない? いいよね。夢中になれることがあるって」
「夢中……。そうだ、な。建物の本を見るのは好きなんだ」
「本当に好きなんだね」
「ああ、好きだ」
ヴェールが本を見ながら、見たこともないような笑顔を見せる。花奏などいないかのように、本に微笑みかけた。
好きなものを前にした笑顔なのだろう。
毎日のように図書室に来て、建物の本を読んでいるのだから、よほど好きなのだ。
その顔を見て、うらやましくなる。花奏には好きなものがないからだ。
「いいねえ。好きなものあると」
「ないのか?」
「思い付かないなあ」
弓道は部活でやっているだけ。家族から勧められたのだ。FPSは兄がやっていたから一緒にやっただけ。暇に任せて誘ってくるため、よくプレイをしている。兄は花奏をよく構ってくれるのだ。
「兄の影響はあるけど、好きかって言われれば、よくわかんない」
いや、今は青藍のところに行くのは好きかもしれない。神社の雰囲気や、建物。青藍の尻尾に、お茶やお茶菓子。
それから、
「幼い頃から続けていることとかは?」
「え、んー、弓道はやってたっぽいけど」
今何を考えただろうか。ハッとして、ヴェールの話に集中する。
「弓道?」
「あ、弓と矢のことね。まあとにかく、続けてても好きかはわからないってこと」
「幼い頃から続けていられるのならば、好きなんじゃないか?」
「んんー」
「なんださっきから。考えることか?」
「はは、ヴェール君はいつから建物に興味持ったの?」
「さあ、子供の頃?」
「子供の頃か。何かに影響とかされたのかなあ」
「わからない」
ヴェールはわからないを繰り返して、持っていた本をじっと見つめていた。
「わからないってなんなんだろう」
システムのバグ? それとも設定が詳細まで練られていない?
どちらもあり得そうに思えて、花奏は嘆息する。
NPCのように、いかにもシステムではない、話をするキャラたち。ゲームで決められた言葉を話しているわけではない。花奏の存在はイレギュラーなのに、答えを返す。
「ヴェール君のはちょっと、その枠からはみ出てるって感じかなあ」
だが、青藍の場合はイレギュラーの質問でも、はっきり答えてくれないだけで、答えは持っていた。
わからない。となる理由は何だろう。
「あ、ねえ、そこの君」
花奏は前から歩いてきた、NPCらしき男子生徒に声をかける。
男子生徒は足を止めて振り向いたが、おはよう。と言うだけ。間違いなくNPCだ。
「日本国には神様が八百万います。あなたの国の神様は何人いますか?」
「神? 神。カミ、か」
「ごめん、何でもない。神様は女神様だけだよ」
「か、かみ、か、ぁ」
NPCはバグっただろうか。カミカミ言って、ふらふら歩いて行ってしまった。
「怖すぎる。エラー吐いてるよ。なんかもう、デバッグしてるんじゃないんだからさ」
設定されていないことについて質問すると、バグを起こす。想定されない質問に反応できない。
「やっぱり、NPCはバグるんだよね。ヴェール君がバグらないのは、攻略対象だからなのかな」
そんなことを考えるたびに、不安になる。
バグのある世界。まともに会話ができないNPCたち。設定に細かさはなく、けれど制約のあるキャラ。
そして、そんな世界に、花奏はいる。
夢だったらどれだけ良かっただろう。だが、花奏はここにいて、出ることができない。
そして、青藍は、その世界にずっといるのだ。
「青藍も同じなのかな……」
あんなふうに、バグることがあるのか?
いいや、キャラはあんなふうにバグったりしない。
それが、モブたちとの違いだ。
けれど、違っていても、それが作り物だということには違いない。
そう思うと、なぜか胸の奥が凍えるような気がした。あんなふうに、作り物のような動きになるなど、考えたくない。
「あれ、これから帰るの?」
声をかけてきたのは、ローザだ。誰かを待っていたのか、昇降口で佇んでいた。
「今日、グルナディーヌ様いなかったよね。お休みだったのかな?」
「グルナちゃん、体調悪いみたい」
「そうなんだ」
ローザはグルナディーヌに様を付けるようだ。王子様の婚約者候補ならば、世界観として普通のことなのだろうか。そのブランドロワ本人には、さん付けで呼んでいたのに。




