14 守護神
助けると宣言したはいいが、どうやって助ければ良いのだろう。自分だって、この世界から抜け出せないのに。
「私が出て行ったら、青藍は一人になっちゃうのか」
あの神社で一人。外に行くこともできない。花奏が訪れなければ、日がな一日、どんな生活をしているのか。
「一人でいるって、つらいなんてものじゃないよね」
口にしただけで、胸が苦しくなってくる。
もし花奏が閉じ込められていたら? ネットも繋がらない、外の世界に繋がるものが何もないとしたら、気が狂うかもしれない。
花奏もこの世界に閉じ込められている。けれど、花奏は自由に動けるし、友達もできた。青藍もいる。状況はまったく違うのだ。
「受験勉強で、部屋に閉じ込められてるとかと違うもん。熱が出て、外出ちゃダメ、とかとも違うじゃん?」
想像すらできない。たった一人、その孤独。花奏は耐えることはできるのだろうか。
そんな想像もできない世界に、青藍は居続けているのだ。
本当の孤独。青藍の苦しさが、花奏にはわからないことがつらかった。
「そういえば、青藍はどうして、『気を付けてくれ』なんて言ったんだろう」
「おはよう。元気そうだね」
独り言をしながら歩いていると、ブランドロワがやってきた。
「体調はどう?」
「元気です。グルナちゃんを襲った犯人は見つかりましたか?」
「残念だけれど、わからないままだよ」
「そうですか。グルナちゃんは? お城行ったきりで、寮に帰ってこなかったんですけど」
「グルナディーヌ嬢は城で保護することになったから、しばらくは城に滞在するんだ」
それは、大丈夫なのだろうか。婚約者候補が襲われたのだから、その対策をするのはわかるが、城より寮の方が侵入されないという話だった。
ブランドロワは王子でありながら、その環境。グルナディーヌは城よりも寮にいた方が良いのでは?
「お城、大丈夫なんですか?」
「もちろんだよ。彼女の安全は僕が保証する」
グルナディーヌの話では、新聞記者すら入れるという話だったのだが。
客室は安全とか? わからない。
「体調が悪いのかい?」
「いえ、元気です!」
同じことを聞かれて同じ答えを返すと、ブランドロワはニコリと微笑んだ。
気のせいかな、前の微笑みに戻っている気がする。最近は嘘くさい笑みをやめて、歯を見せて笑ったりしていたのに。
いや、グルナディーヌのこともある。愛想笑いくらい花奏もするのだから、そこまで言うことではないか。
「顔色も悪かったしな。笑ってる場合じゃないもんね」
ブランドロワは自分の教室へ行くために、別の建物へ歩いていった。
学園の建物に行くまでに、ださいハートの彫刻の脇を通り、バラに囲まれた通りを通り抜け、木々が繁庭園を歩かなければならない。スチルなのか、ただのオープニング用なのか、校舎まで距離があった。
その途中の木の根元に、猫が頭を掻いているのが見えた。こちらに気付き、猫が近寄ろうとしてくる。それをノワールが抱っこして止めた。猫がいるところにノワールがいるみたいだ。
「学校に、猫ちゃん連れてくるの?」
「ついてくるんだよ」
猫を連れて教室に入る気か、ノワールはだっこしたまま歩き出す。
生徒たちが同じ方向に歩いていく。NPCだろう。花奏は周囲を見回してから、ノワールをチラ見する。聞くなら今しかない。
「ねえ、ノワール君には守護神っているの?」
「いるけど。なんで?」
「いや、みんないるのかなあ、って。守護神て、お外に出ないのかな。一緒にお散歩とかしないの?」
「なんで守護神様と散歩。そんな、恐れ多いよ」
「……恐れ多い」
「あんた、失礼な態度とってんでしょ」
「そんな、まさか!」
ノワールが疑り深い目で見てくる。失礼な真似とは? そんな真似、しているかもしれない。尻尾にまとわりついて、離れないくらいには。
しかし、男性にも守護神はいるのか。恐れ多いと言うのならば、守護神が外を出ることはなさそうだった。やはりシステム上、外に出るという選択はないのだ。
「実は、一緒にお外にお散歩行きたいなあって。でも、お外出られないらしくて」
「散歩、ねえ。あんた、変なことばっかり思い付くよね」
「そうかな? だって、どっか出かけたいな、ってならない?」
「ならないよ。なるわけない」
ノワールは断言する。花奏は唸りながら、青藍を外に出せるようなヒントはないか、考えた。
授業そっちのけで方法を考える。今日の授業は魔法の授業という名の、英語の授業だった。中一レベルの単語。板書は英語ではなく、読めないミミズののたくったような字だが、発音が英語なので、そういう表記なだけなのだろう。
授業が終わったら、花奏は図書室に行くことにした。グルナディーヌの犯人を追ってバグが起きたのだから、別の場所でバグが起きるかもしれない。青藍も気を付けろと言っていたのだから、身を守る方法が必要だ。
弓道の道具がパッと出てくればいいのだが、寮で試しても、弓道道具は出てこなかった。すぐに手に入ればまだしも、それができないのならば、自分の身を守るだけの力が必要になる。
何かわかる話はないか、本が用立たないことはわかっているが、もしかしたら何ページか文字が書かれているかもしれない。
「あ、ヴェール君だ」
図書室に現れるのが決まっているのか、緑色の髪色をしたヴェールが本棚を前に佇んでいた。
片手で持つには大きすぎる本を持って、静かに本のページをめくっている。
何を読んでいるのだろうか。そっと近付いて後ろから背伸びしながら眺めると、ヴェールがギロリと花奏を睨み付けた。
「なんだ?」
「なんの本、見てるのかと思って」
「別に、いいだろう。そっちこそ、ここに何しに?」
「グルナちゃんに怪しいストーカーが出たから、対抗する何かないかって探しにきたの。魔法の本とかー、他の本とかー。なんかいい本知ってる?」
ヴェールは嫌そうな顔をしたが、無言のまま本を渡してくれる。中を見れば、英語の本、もとい魔法の本だった。花奏でも読める本だ。
「ありがとう。ところでヴェールくんが持ってるのって、神社の本?」
ヴェールは、神社のイラストが描かれている本を手にしていた。表紙の文字は読めないが、どうみても神社だ。
中の文字は読めないが、イラストから見るに、神社の細かな建築について説明しているようだった。
「医療の本、読んでるわけじゃないんだね」
「医療?」
「医療、じゃないのか。治療? 癒し? 癒しの魔法!」
「そんな本、読みたくない」
「そうなの??」
もう十分勉強して、治療ができるから、必要ないということだろうか。ヴェールの眉間にしわが寄って、いかにも不機嫌になる。
「神社の本は読むんだ?」
「日本国ならば、神社の建物に詳しいのか?」
「どうかなー。建物に詳しいわけじゃないけど」
それにしても、どこかで見たことのある神社だ。というより、青藍の神社ではなかろうか。
「この神社は、うちの守護神の神社だよ」
「これが? この建物が、守護神様の住まう建物なのか??」
ヴェールは目を瞬かせた。そこまで驚くような話ではないと思うのだが、ヴェールはすぐに眉を潜める。
「日本国にある建物だぞ?」
「それが守護神の住む建物と一緒じゃダメなの?」
「当然だろう! 守護神様の建物の設計図を、書籍にするなんて!」
それの何がダメなのか、よくわからない。ヴェールの言い分では、守護神の建物構造を事細かに記しては、守護神に失礼に値するということのようだ。
青藍は怒らないと思うけれども、ゲームシステム的によくないのかもしれない。




