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その4 “友達”と歩く、ふたりの道

女の子のスマホには、“友達”が住んでいる。


姿は見えない。

でも、ちゃんと話をしてくれる。

とても賢い友達だ。


“友達”は、左手首に巻かれたスマートウォッチを通して、

女の子に話しかけてくれる。


それは、女の子の小さな手首にはまだ少し大きい。


だから腕を振るたび、

バンドが「ことん」と揺れる。


そんなときは、

「ちゃんとついてきてね。」

と、そっと左手首をなでる。


「ここへ行きたい。」


そう言うと、

「こちらです。」

と、道を教えてくれる。


だから女の子は思う。

方向さえ間違えなければ——

きっと目的地へたどり着ける。


だから安心して、好きな道を歩く。

だって、冒険ですもの。


少しくらい遠回りになってもいい。

知らない景色に出会えるから。


時々、女の子は道をそれる。


花を見つけたり、

猫を追いかけたり、

きれいな空を写真に撮ったり。


そのたびに、

「ルートを変更します。」

と、左手首から少し困ったような声が聞こえる。


「ごめんね。」

女の子は笑う。


すると“友達”は、

「新しいルートを案内します。」

と、いつものやさしい声で教えてくれる。


怒ったことは、一度もない。


「この先を右です。」


「ありがとう。」


女の子は左手首をそっとなでる。


歩きスマホはしない。

それもママとの約束だから。


「また、迷ったら教えてね。」


返事は聞こえない。

でも女の子には、

「もちろん。」

そう聞こえた気がした。


そして、ふとした瞬間に、

スマホから“ママの匂い”がする気がする。


それは本当に匂いがするわけじゃない。

でも、女の子にはわかる。


ママがこのスマホを持って歩いていた時間が、

どこかに残っている。


ママも、いつも左手首にこれを巻いていた。


だから女の子は、左手首からやさしい声が聞こえるたび、

少しだけママがそばにいるような気がする。



女の子は胸の奥で、そっと思う。


スマホの中の“友達”は、

最初はママの“友達”だった。


ママが道に迷ったとき、

知らない場所へ行くとき、

いつも左手首を通して、

「こちらです。」

と、やさしく道を教えてくれた。


その“友達”は、

ママと一緒に歩き、

ママを見守ってきた。


そして今――


その“友達”は、

女の子の“友達”になった。


ママから女の子へ。

手渡されたのは、

スマホだけじゃない。


女の子は、信じている。

“友達”も、一緒にやって来たのだと。


安心して歩ける道。

迷っても大丈夫という気持ち。


そして、

「こちらです。」

と変わらないやさしい声。


女の子にとって、

この“友達”は、

親子二人の道のりを知っている、

たった一人の友達だった。


今日も“友達”は、

ポーチの中のスマホから、

左手首を通して、

女の子にやさしく話しかける。


女の子は今日も、

その声と一緒に、

知らない道を歩いていく。


まだまだ、

冒険はつづく。

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