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2/7

その2 影といっしょに

女の子は、このまえより少しだけ早く家を出た。




「今日の冒険は、うまくいく。」



心の中でそっとつぶやく。




道の先に、朝のひかりが静かに落ちていた。


その光に向かって歩くと、女の子の後ろに長い影が伸びてくる。


影は、まるで女の子のあとをそっとついていく相棒みたいだった。




「ねえ、一緒に行く?」


影は答えないけれど、すこし揺れて、寄り添うように形を変えた。






横断歩道までやって来た。




横断歩道は緊張する。


「あなたもちゃんと後れずについてくるのよ。」


そっと足元に声をかける。



道路では、車が主役。


女の子は、そのすき間を歩かせてもらう。



だから、女の子は思う。



「今日は、やさしい運転手さんばかりだといいな。」



女の子は、ぴいんと手を高く挙げる。


「わたし、ちっこいから。」


車の人からちゃんと見えてるかな。


そんなことを思いながら、できるだけ高く、背伸びをする。




両方の車が止まった。


にっこり笑ってぺこり。


でも、あわてて渡らない。


ママが教えてくれた。



「止まった車を追い越してくる車がいるかもしれないからね。」



だから、まずはゆっくり。


道の真ん中まで歩く。


右を見て、左を見て。


もう一度、安全確認。


「よし。」


今度は少し急いで渡る。



横断歩道の真ん中では、もう一度背筋を伸ばして、少しだけ背伸び。


やっぱり、車の人からちゃんと見えていたほうが安心だから。


渡り終えたら、


「ありがとう。」


声には出さないけれど、ちゃんと伝わるように。


これも、ママとの約束。



斜めがけしたお気に入りの水筒。


その反対側には、ばあばが作ってくれたスマホ用のポーチがある。


中に入っているのは、誕生日にプレゼントしてもらったママのおさがりのスマホ。



女の子は、写真を撮るのが大好きだ。


撮り方は、動画投稿サイトで教えてもらった。


女の子は、その人を「師匠」と呼んでいる。



コツは、まず頭の中で構図を決めること。


そして、心の中の気持ちをそっと込めてシャッターを切ること。



シャッターチャンスは、待ってくれない。


撮ったら、すぐにポーチへしまう。




また歩いて、見つけて、撮って、しまう。


その繰り返し。


素早く撮ることには、もう一つ理由がある。


師匠は言っていた。


「撮るより、見られるほうが気になる人もいるからね。だから、さっと撮って、さっとしまうんだ。」



もちろん、歩きスマホはしない。


それはママとの約束。



撮った写真は、じいじとばあばに、たまにパパに送る。


「きれいに撮れたね。」


「この景色、見せてくれてありがとう。」


そんな返事が届くたびに、女の子はうれしくなる。



その笑顔を思い浮かべながら、また一枚、心を込めてシャッターを切る。




お腹がすいた。




今日はちゃんとバナナを持ってきた。


このまえの冒険で学んだから。



公園があったので少し休憩!


近くのベンチでバナナを食べ終わると、


「ちょっとだけ休もう。」


アンパンマンの遊具の中でごろんと横になる。


風が気持ちいい。


リュックからそっとぬいぐるみを取り出す。


「昼寝したいの?しょがないわね」


胸に優しく抱きよせ。


少しだけ、一緒にお昼寝。




目を開けると、柔らかな声が落ちてきた。


「お名前は?」


公園にいたママさんが、心配そうに、でも優しく覗き込んでいる。


うーん。


「知らない人には教えちゃダメなの。」


「……個人情報だから。」


「今度また会えたら教えてあげる。」


そう言って笑顔をつくる。



それから、ふと思いついて付け加えた。。


「お姉さん、とっても優しくてきれいだから。」


(これで安心してくれるかな。)



女の子はそう思いながら、ほんの少しだけ手を振り、


また冒険を続けた。





影は、太陽の高さに合わせてさらに小さくなっていたけれど、


そのぶん、女の子のすぐ後ろでぴたりと寄り添っていた。








そのころ、公園のベンチでは――



私は、公園のベンチで少しだけ休んでいた。


風が強すぎず、弱すぎず、ちょうどいい。


子どもたちの声が近くで跳ねている。



ふと視線を向けると、遊具の影に小さな女の子が横になっていた。


眠っているのか、ただ目を閉じているだけなのか。


その姿が、どこか頼りなくて、どこか自由で、胸の奥が少しだけざわついた。



しばらくして、女の子が目を開けた。


その瞬間、安心が胸に落ちる。


気づけば声をかけていた。



「お名前は?」



ただの確認のつもりだった。


でも、返ってきた言葉は予想よりずっと大人びていた。



「知らない人には教えちゃダメなの。」


「……個人情報だから。」



その言い方があまりにも自然で、思わず笑ってしまいそうになる。


しっかりしている。


でも、どこか寂しさを隠しているようにも見える。



「今度また会えたら教えてあげる。」



その言葉は、約束というより“やさしい距離”だった。


無邪気なのに、妙に思いやりがある。


胸の奥が、少しだけあたたかくなる。



そして、最後に。


「お姉さん、とっても優しくてきれいだから。」


その瞬間、心の中で何かがほどけた。


褒められたからじゃない。


この子が、安心させるために選んだ言葉だったから。



“また会えたらいいな。”

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