第七十五章
宮内は、駅構内のコンビニで、雑誌を開いたまま、ページをめくっていた。
だが――内容は、まったく頭に入ってこない。
視線は、文字の上を滑り、そのままガラス越しの駅前へ流れていく。
平井に電話してから、二十分。
体感では、すでに二時間は経っていた。
――遅い……
喉の奥が、じわりと渇く。
ガラスの向こう。
スーツ姿の男が、立ち止まり、こちらを見た気がした。
宮内は反射的に、雑誌を持ち上げる。
視界の端で、その男が動く。
しばらく、本で顔を隠し、ページの隙間から、もう一度だけ覗く。
男はいない。
だが――
別の場所に、似た背格好の男が立っている。
(……気のせい……?)
鼓動が、ひとつ、強く鳴る。
コンビニの自動ドアが開くたびに、身体が反応する。
誰かが入ってくるたびに、
「前田班長ではないか」と、
ありもしない顔を、勝手に重ねてしまう。
――外に出た方がいい……
そう思う。
ここにいれば、逆に“閉じ込められる”。
けれど――
もし、外に出た瞬間。
目の前に、いたら?
宮内は、雑誌をさらに高く持ち上げた。
その裏で、
自分の呼吸が、やけに大きく響いていた。
外を見ていた宮内の背中に冷たいものが走る。
あの男……
茶色の革ジャンを着て、俯いて歩いている……
間違いない、
ついさっき、前田の肩を持ち、私に東雲隊長や慎一君を研究材料だと思え。と言った男ーー
藤堂だ……
しかし……
今の藤堂は、先程と違って元気がない……
何か、失敗して、前田に叱られたのか……
藤堂は、俯いたままコンビニの前を通り過ぎるように思えたが、立ち止まると向きを変えて、コンビニの入り口に歩き始めた。
宮内の心臓が跳ねる。
宮内は急いでコンビニのトイレに向かったが、使用中で入れない。
入店のチャイムが鳴る。
「いらっしゃいませ…」
店員の声が、耳に入る。
藤堂が店内に入ってきた…
宮内は、ドリンク売り場のガラス越しに、ドリンクを選ぶフリをした。
藤堂は俯いたまま、ドリンク売り場に歩を進める。
宮内の顔から、血の気が引く。
ゆっくり、
ゆっくりと、藤堂が近づいてくる。
宮内は、身体が震え出し、逃げることも出来ない。
藤堂が近づく。
ーーもうダメ……
藤堂は、ドリンク売り場で立ち止まり、酒類を何本かカゴに入れるとレジに向かって歩き出した。
気がつかなかった……?
藤堂が気になるが、振り返って見る勇気はない……
「ありがとうございました…」
店員の声が聞こえ、チャイムが鳴る。
宮内が、ゆっくりと出入り口に視線を向けると、藤堂は店先で立ち止まり、買ったばかりの缶ビールを開けて、飲みだした。
一口……
二口……
藤堂は、店先で缶ビールを飲み始めた。
宮内は、ドリンク売り場から離れ、陳列棚の陰に隠れるように移動して行った。




