第七十一章
お詫び
「触手も垂れ落ちて、」
と書くつもりが、
「瞬間も垂れ落ちて、」
と、なっていましたので、訂正しました。
申し訳ありませんでした。
平井を中心とする、
ーー零、慎一君救出部隊が、研究棟の前に着く。
司令部から、警備隊が出てくるかと思ったが、止める者は誰もいなかった。
自動ドアが開き、平井が先頭で、研究棟に入っていく。
カウンター越しに、案内の女性職員が、軽く頭を下げる。
「いらっしゃいませ。本日は、どのような御要件でしょうか」
あまりに、マニュアル通りで。
あまりに、普通過ぎる。
平井達が、来ることは知っている筈だし、同じ特異隊の隊員に話す言葉でもない。
違和感しかなかったが、平井は、
「東雲隊長と、慎一君をもらいに来た。どこにいるか、教えてもらいたい」
と、目的を告げる。
「東雲隊長は、3階の『脳神経検査室』にいます。慎一君は地下2階の隔離室です」
パソコンも見ない。
資料のようなものも見ない。
まるで、聞かれることを知っていて、答えを用意していたような返答だった。
しかも、平井の顔を見ていない。
——いや、誰のことも見ていない。
視線は、最初から最後まで、正面の一点に固定されたままだった。
「そうか。ありがとう」
平井がエレベーターの方に歩き出すと、渡辺が、受付に声をかけた。
「ねぇ…お姉さん。お姉さん……の名前……、教えてもらえるかな」
「……」
受付は答えない。
渡辺の顔も見ない。
「お姉さん……、名前……教えてよ」
渡辺が、受付に顔を近づけて尋ねる。
「……」
受付の目を見ていた渡辺が、
「下がって!」
と、声を上げ、自分も飛び退く。
静寂。
「グェホッ!」
受付の口が、不自然に大きく開いた。
——顎が、外れている。
次の瞬間。
中から、何かが“ほどけるように”溢れ出した。
それは、数十本の触手であった。
深緑の粘液にまみれた触手が、受付の口から出て、何かを探すような動きをしている。
「あの野郎……、やっちゃあ、いけねえことしやがって……」
平井が苦虫を潰した表情になる。
「あたしに任せて!」
渡辺が言い放つ。
「おい…殺すなよ…」
千々和が渡辺に警告する。
「うっさいわねぇ~、わかってるわよ!」
渡辺が異能を使うと理解したため、全員が下がる。
渡辺が、触手を伸ばしながら、全身を震わせている受付を睨む。
空気がピンと張った。
次の瞬間……
受付の身体が、感電し硬直した。
触手も垂れ落ちて、しなだれた植物のようになっている。
「これで、いいでしょ」
「生きてるのか」
渕が尋ねる。
「生きてると思うわ」
渡辺は、硬直している受付を見ながら、
「“人間として”かどうかは、知らないけど」
と、言いたくないことを言ったように、受付から視線を逸らした。
ライフルマンの医療担当が呼吸を確認し、
「大丈夫です。生きてます」
と告げる。
「最初から、これかよ…。こりゃ妖魔の巣に跳び込んだようなもんだな……」
鈴木が笑いながら言う。
「あんにゃろー、ひでぇことしやがって……」
冨田も、失神した受付を見ながら呟く。
「平井隊長、射撃許可はどうしますか」
ライフルマンが尋ねる。
「…………。なるべくは撃ちたくないが…。出来るなら足を撃て。それでもダメなら、自己判断で射殺しろ。俺が許可する」
平井の言葉に、ライフルマンの指がライフルのトリガーガードで微かに震えた。
相手は妖魔ではない。
一緒に酒を飲み、大笑いしていた、自分たちと同じ「人間」なのだ。
だが、彼らは静かに頷き、安全装置に指を掛けた。
ライフルマンのマガジンには、前回同様に、輸血用の血液を垂らしてある。
「俺は、鈴木と冨田隊長とで、慎一君の救出に向かう」
「じゃあ、あたしと千々和隊長と渕隊長で、零の救出ね。」
平井と渡辺がやり取りを行なう。
橘が、
「自分が平井隊長、平山が渡辺隊長に付きます」
と、告げる。
「それでいい。15小隊のライフルマン……6名は、渡辺隊長に付いてくれ」
「了解しました」
沈黙が深々と染み込んでくる。
「人間相手の戦いか……。下手に殺せないぶん……逆にやり難いな……」
千々和が呟く。
その言葉を、全員が理解していた。
妖魔化していても、殺したくはない。
しかし。
殺さないと、
殺される。
——そして。
殺していいのは”誰なのか”が、
もう区別がつかない。と。




