第六十八章
宮内は、駅への道を歩きながら、特異隊の受付に電話をかけていた。
「すいません、研究班の宮内ですが、異能隊の平井隊長に繋いでもらいたいんですが…」
「研究班の宮内さん……ですね……」
受付がパソコンを使って、隊員名簿から研究班所属の宮内と言う名前を確認する。
「確認出来ました。宮内…佳香隊員ですね…。お繋ぎしますので少々お待ちください」
回線が切り替わり呼び出し音が鳴る。
「はい、平井です」
受話器の向こうから、平井の声がする。
「平井隊長……、研究班所属の宮内です……」
「おお!宮内さん!」
平井の声が、喜びに満ちる。
「やっと、食事に行く気になってくれたか!?」
「その話は……、今回の件が解決したら、改めて考えさせてもらいます……」
「……今回の件……?何かあったのか……」
「はい……。実は……」
しばらく沈黙が流れる。
「……これを話したら……」
宮内の声が、わずかに震える。
「私は……研究班には戻れないかもしれません……」
宮内は、研究棟での、零と慎一君の扱い。
それに、前田班長との会話を平井に話した。
「な…んだとぉ……」
平井の顔が怒りに震え、受話器を持つ手に力がこもる。
「本当なんだな!今の話は!」
「はい…。残念ながら…」
「あの野郎……。前々から気に食わなかったんだ…」
一拍。
「……宮内さん!」
声の温度が変わる。
「その話——上に通す前に、俺が動く」
「でも…中隊長に話を通した方が…」
「上に通せば、前田の息がかかった連中に握りつぶされるかもしれん……なら、証拠ごと俺がブチ抜いてやる!」
平井の声に、明らかな怒りが溢れていた。
「今、どこだ?」
平井が宮内に聞く。
「え……駅前です……」
「わかった。誰か…そっちに向かわせる!それまで、そこに居てくれ!」
「え……大丈夫ですよ……。まさか……」
宮内の顔が固まった。
「まさか……私を……」
「わからん……。けど……ないとは言えん……」
平井が自分の意見を言う。
「いいか!動くなよ!なるべく人の多い場所に居るんだ!」
「わ……わかりました……」
平井は電話を切り、直ぐに電話をかける。
「平井だ!すまんが、頼みがある……」
電話を切った宮内の指先は、冷たくなっていた。
昼間の駅前。
宮内の前を通る人々の顔が、すべて前田班長の刺客に見えてくる。
彼女は逃げ込むように、駅構内のコンビニの奥へと足を進めた。
平井が誰を呼んだか、分からなかったが、常に周りに人がいる場所に居たかった。
平井は橘に連絡を入れた。
「橘、至急、小隊を集めてくれ!」
「了解しました。出動ですか?」
「そうだ!後、15小隊も俺の名前で集めてくれ!」
「15小隊……。ですが、15小隊の東雲隊長は検査中では……」
「だから、俺の名前で集めろと言ってるんだ!」
平井が隊のメンバーに、ここまで怒声を発することは、今迄なかった。
橘も、今回の出動がいつもとは明らかに異なる状況だと気がついた。
「了解しました!」
「5分後に出る!」
「了解しました!」
平井は電話を切ると、早足で部屋を出る。
その瞳に、怒りを宿して。




