第六十七章
宮内は、ロッカーで着替えを済ますと、研究棟を出て特異隊を後にした。
「前田班長……お話が……」
藤堂が前田に囁く。
「なんだ…?」
「ここでは……。少し、お時間をいただけますか?」
前田と藤堂は、研究室を振り返る。
何人かの職員が、前田と藤堂を見ていたが、直ぐに視線を逸らす。
「直ぐに戻る」
前田は研究室の職員に声をかけると、藤堂の肩を抱き、部屋から出ていった。
2人は、非常階段の踊り場にある喫煙所で話し始める。
「なんだ…藤堂…」
前田の声にイラつきが現れている。
「宮内の件です。あの女…あのままにしておくつもりですか?」
前田は、鋭い眼差しで藤堂を見ている。
藤堂は辺りを見て、
「もし…班長が良ければ…私が…」
藤堂が、いやらしい笑いで、前田に許可を得ようとする。
「だから貴様は、いつもあの女に負けるんだ!」
前田は、藤堂の胸倉を掴み、小さな声だが怒りとイラつきを隠そうともせず、藤堂を怒鳴る。
「ここで、あの女に何かあったら、真っ先に疑われるのは誰だ!え!言ってみろ!」
「…………」
藤堂は、自分の考えがいかに危険だったかを思い知り、沈黙してしまう。
「わかったようだな」
前田は藤堂の胸を離すと、タバコを取り出し火を点ける。
吐き出した紫煙を見ながら、
「お前は感情に走り過ぎる。もう少し、頭を冷やせ……」
藤堂は、俯きながらも、
「しかし……、あの女が司令官や異能班にチクったら……」
「チクったら、どうなる?研究に関しては、我々のやり方でやるようになっている。注意くらいはされるかも、しれんがな……」
「……それで……済みますか……」
前田は藤堂を見て、優しく笑う。
「貴様……以外に小心者だな……」
前田は、白衣のポケットからピルケースを取り出し、その中のカプセルを藤堂に渡した。
「これを飲んで、帰って寝てろ」
「これは……」
「精神安定剤だ。今のお前では、失敗してしまいそうで、使い物にならん」
藤堂は、カプセルを見つめた。
ほんの一瞬だけ――
躊躇が、指先に出る。
だが。
前田の視線に気づいた瞬間、その迷いは消えた。
「わかりました……。自分も早退させてもらいます……」
そう言うと、カプセルを口に入れ、無理して飲み込んだ。
「ああ……。そうしろ……」
前田の言葉は、優しかったが、瞳は冷たく笑っていた。
藤堂はドアを開け、研究棟の中に入っていった。
前田は、それを見ながら笑いを堪えていた。
「藤堂……。今迄……、役にたたないお前を飼っていたが、やっと…役にたつ時がきたな……」
ーージュッ……
前田がタバコを灰皿に入れると、灰皿の中の水でタバコが消える音がする。
前田は空を見上げた。
鉛色の雲が、厚く空を覆って、今にも雨が降り出しそうな雲行きだった。
先程より風が強くなっている気がする。
天気予報では、夕方以降、雨と風が強くなると言っていた。
「……今夜あたり……荒れるかもしれんな……」
前田は満足そうな笑みを浮かべると、研究棟の中に入っていった。




