第六十三章
病室での会話は、渡辺の笑い声だけが、少し浮いていた。
零も、そんな渡辺の気持ちが嬉しくて、明るく振る舞って見せた。
しばらく、お酒を飲んでいると、病室のドアがノックされた。
「はい!どうぞ」
零が返事をすると、加藤中隊長と江崎隊長が入ってきた。
「中隊長…江崎隊長…」
「あれ?渡辺隊長も来てたんだ」
江崎が明るく言う。
「当たり前でしょ!あたし達、マブなんだから!」
渡辺も、笑顔で答える。
「思っていたより、元気そうだな…」
加藤中隊長が、缶チューハイを飲んでいる零を見て言う
。
「はい!心配かけて、申し訳ありません」
零は、深々と頭を下げる。
「気にするな。それより…よくやってくれた…。ありがとう」
加藤中隊長も、零の状況を理解しているようだった。
廃墟の地下。
宮本の銃口。
解除させられた武装。
——あの時点で、終わっていたはずだった。
腕を撃たれた中林と2人で、『成功作』の妖魔を倒したのだ。
それが、
どれだけ難しいことかは、
加藤中隊長も、理解していた。
「私の力では……ありません……。中林の……おかげです……」
零は、俯いて呟く。
「けどさ、あの状況でよく生き残れたよね。凄いよ、東雲隊長は!」
江崎が、現場を知る隊長としての言葉をかける。
「そうよ!あんたと中林の2人で成功作を倒したんだから!」
渡辺も、現場を知る隊長として零を讃える。
「……ありがとう……、江崎隊長……恵子……」
零の言葉は、沈んでいた。
「中林の事を気にしているのか?」
加藤中隊長が、零に声をかける。
「……」
「だったら、お前の気にし過ぎだ。」
加藤中隊長の言葉に、零は顔を上げる。
「江崎も、渡辺も聞いていてくれ」
「我々、特異隊は妖魔と戦うための組織だ。しかし、妖魔の力も把握出来ていないのが現状だ。そんな中で…、お前達…。いや、特異隊のメンバーはよくやってくれている」
全員が、加藤中隊長の言葉を真剣に聞いている。
「妖魔という、未知の化け物と戦っているんだ…。怪我人も出る…、戦死するものも出てくる…」
「だけど…。それは、お前達…隊長の責任ではない」
沈黙。
「……運だ」
加藤は、一拍置いた。
「……そう割り切るしかない」
零も、わかっていた。
戦場で、『運』が悪ければ、どうしたって生き残れない。
もちろん…。
わかっている。
それでも。
——納得は、出来なかった。
しばらくすると、看護師が部屋に入ってきた。
「東雲さん、目が覚めました?」
「はい」
看護師は、零のバイタルを確信しながら、メモをしていく。
「東雲さん、13時から先生との面談があるんだけど…出れそうですか?」
「はい。大丈夫です。けど…、お酒入ってますけど…大丈夫ですか…」
零は、看護師に尋ねる。
「ベロベロに酔ってなければ、大丈夫よ。病院で、素面の異能者なんて見たことないから。」
看護師が、笑いながら答える。
「そうよね。特異隊の指定病院だから、異能者の習性には慣れっこよね」
渡辺が明るく言う。
「あなたは、飲み過ぎですけどね」
看護師が、笑顔で渡辺に注意する。
「どうする、渡辺。俺達は、そろそろ帰るが…」
加藤中隊長が、渡辺に尋ねる。
「はい、私もそろそろ帰ります。江崎隊長、送ってくれます?」
「仕方ないなあ…」
江崎隊長が、苦笑いで答える。
「東雲、戦闘の結果について、考え過ぎるな。ベストを尽くしても、出る被害はあるんだ」
加藤中隊長が、零に声をかける。
「はい。少しは気持ちが楽になりました…」
零の答えに、
「そうそう。あんたが背負うもんじゃないって」
「今は、早く復帰出来るように、ゆっくり休むのが仕事だよ」
渡辺と江崎も、零に声をかける。
「ありがとうございます。早く復帰出来るように、今は治療に専念します」
——自分の声が、少しだけ他人のもののように聞こえた。




