第六十二章
「そのうち、先生の方から詳しい説明があると思うけど…あたしが聞いたのは…まだ…カマキリ型の妖魔の麻薬成分が脳内に残っているらしいってことよ…」
麻薬成分が残っている…
妖魔の…
麻薬が…
零は、ゆっくりとした口調で渡辺に、
「それって…排出されるとか…自然に消えていく…のかな…」
渡辺も、ゆっくりと答える。
「まだ…はっきりしないの…。なんせ、妖魔から撒かれた麻薬なんて、今迄にないから…」
「そっか…」
零は、自分の手を見つめていた。
この身体に…
自分の頭の中に…
妖魔が撒いた麻薬が…
まだ…残っている…
「ほら!」
渡辺が、パンパンに膨らんだレジ袋を取り出す。
中身は、もちろん『酒』だ。
「とりあえず、異能の元を補充しよ!」
「ありがとう…恵子…」
口角だけが、わずかに上がった。
そして…
「恵子、平井隊長は?」
平井の安否を聞く。
「平井隊長が、くたばるわけないでしょ!平山も橘も、なんとか生きてるわ」
「そっか…。平山も、平井隊長も無事なんだ…」
「平山は…足を骨折してるわ。ライフルマンも…3分の1が亡くなったわ…」
「そんなに…。そうだ!慎一君は…慎一君は大丈夫なの?」
零が思い出して、渡辺に聞く。
「慎一君は、大丈夫よ。特異隊で保護したわ。けどね…」
「何?……慎一君……どうかしたの……」
渡辺は、零を見て答える。
「あなたと同じよ…。カマキリの麻薬が…まだ…残っているの…。でも、意識は、しっかりしてるから、心配しないで…」
「そう…。宮本は?宮本は大丈夫なの?」
「宮本は…今のところ意識不明よ。どうも…あなたが吸い込んだ麻薬より、強い麻薬を注入されてるみたいなの…」
「……」
言葉を失う零に、渡辺が缶チューハイを差し出す。
「零。今、あなたに出来ることをしなさい。」
渡辺が真剣な眼差しで、零に言う。
「今の…私に…出来ること…」
「そう。入院していて、部下の見舞いにも行けない。慎一君の顔を見ることも出来ない。そんな零が…今、出来ることよ!」
「……何?……」
「あんた、ほんっとにバカねぇ…。酒を飲んで、異能を司どる脳を活性化させることに決まってるでしょ!」
渡辺の差し出した、缶チューハイを開ける。
「いろいろ…問題はあるけど…、あんたが無事で…ほんっとに…良かった…。」
渡辺の目に涙が浮かぶ。
「恵子…」
零も、渡辺の優しさに目頭が熱くなる。
「この、バカ女に乾杯!」
「バカ女の親友の、バカ女に乾杯!」
2人のバカ女は、缶を合わせた。




