第五十八章
麻薬が切れた苦しみか――
それとも、妖魔の成分に体内を侵された副作用か。
宮本は、肩から下げていたライフルを引き上げた。
ーージャキ!
チャージングハンドルが引かれる音が聞こえた。
ライフルのバレルの下に装着しているライトが点灯し、地下フロアを照らす。
宮本の目は、焦点を結んでいない。
「……っ、やめろ、宮本!」
次の瞬間。
ーータタタ!……タタタ!タタタッ!!
フルオートの銃声が、地下に反響する。
だが――
その銃口は、無秩序ではなかった。
壁、天井、空間の一点一点を、なぞるように撃ち抜いていく。
(あれは……)
零の脳裏に、張り巡らされていた“糸”がよぎる。
「慎一君!伏せて!」
銃弾の嵐に、カマキリが舌打ちし、慎一から距離を取る。
その一瞬。
「――今だ!」
零の異能が発動する。
空間切断!
見えない刃が走る。
ゴトン…
その軌道上にあった瓦礫が、二つに切断された。
だが——
「……なに?」
カマキリの身体が、“そこにいない”。
確かに捉えたはずの位置から、ズレている。
まるで、何かに引かれたように。
羽根が開いていた。
爆ぜるような羽ばたき。
一気に十メートルを跳ぶ。
着地と同時に、カマキリが、一直線に零に跳びかかる。
右腕が振り上げられる。
五本の鎌が、光を反射して妖しく輝いた。
『空間切断』を使うには、敵の動きが速すぎる。
「……くっ!」
零は左に飛ぶ。
カマキリが、鎌を振りかざす。
直後、床が裂けた。
紙のように。
転がりながら、カマキリの羽根から、黄色の粒子が舞っているのが見えた。
甘ったるい臭気。
「吸うな!中林!」
宮本はライフルを握ったまま倒れている。
中林が、その傍へ這っていた。
カマキリが着地し、ゆっくりと振り向く。
——今だ。
空間切断!
空間が引き裂かれる。
確かな手応え。
零を、激しい頭痛が襲う。
遅れて。
カマキリの右脚と、腰下が——ずれ落ちた。
「ギイイイィィーーッ!!」
カマキリの口から、悲鳴が上がった。
断ち切られた腰下から、紫色の液体と、白い腸のようなものが、だらりと垂れた。




