第五十七章
「ハァ……ハァ……ハァ……」
後から聞こえる宮本の息づかいが、明らかに苦悶の様子を呈してきた。
「隊長……宮本さんが……」
腕を撃たれた中林が、宮本の異常を伝えてくる。
「宮本さん…汗びっしょりで…その……」
「宮本がどうした…。はっきり言え!」
視線をカマキリに据えたまま、零が叫ぶ。
「はい……うっ……。宮本……さんの……汗が……紫色……なんです……」
どういうことだ……
紫色の汗……
紫色は……
今、戦っている妖魔……
人によって身体を異界のものに変えられた妖魔の、
血の色……。
「おや?操作麻薬の…効き目が…切れて…きましたか…。まあ…、約目は…果たして…くれたし…とりあえず…人間にも…使える…ことが…わかりましたから…よし…と…しましょう…」
カマキリが、無感情な声で呟く。
操作…麻薬…?
「貴様!宮本に何をした!」
「慎一君に…したのと…同じ…こと…ですよ…」
零の呼吸が止まる。
慎一君と…
同じ…
じゃあ…
廃墟に張り巡らせられていた…
あの…糸は…。
「ようやく…理解…できた…ようです…ね…」
カマキリは数歩下がり、慎一君の首元に、鎌を添えた。
「なにせ…子供だから…結構…苦労…しましたよ…。糸が…足りなくて…。おかげで…」
カマキリは慎一君を見下ろし、
「まだ…しばらくは…動けない…みたい…ですけどね…」
カマキリは、口元の牙を、
ーーカチカチ
と鳴らし、笑って見せた。
ガタン!
背後で物音がする。
「隊長……宮本さんが…苦しそうにしてます…」
零が後を振り返る。
宮本は、両手で頭を抱え、顔色は真っ青になり、薄紫色の汗が、滴っている。
「宮本!」
零の叫びも、宮本には聞こえていない様子で、苦しそうにしている。
「薬が…切れ始めた…ようですね…」
「薬…?」
カマキリの言葉に、零が聞き返す。
「言った…でしょ…。麻薬…と。私の…鎌から…分泌されるのは…麻薬成分が…入っているんです…」
「麻薬だと…」
「はい…。とても…幸せに…なれますよ…」
カマキリは、自分の鎌から滴る液体ーー
麻薬を啜りながら、答えた。
「さて…隊長さん…。こっちに来て…もらいましょうか…」
「宮本と、慎一君を助けろ!」
零が、カマキリに叫ぶ。
「無茶を…言わないで…ほしい…ですね…。人間に…使ったのは…初めてなんで…どうなるか…私にも…」
カチカチ
またしても、カマキリが笑う。
「さあ…来て…ください…。さもないと…慎一君の…首が…」
「隊長……」
中林が不安そうな声が、地下フロアに飲まれていった。




