第五十六章
身長2メートルを超えるカマキリが、4本の細長い脚を器用に動かし、音も無く近づく……
今、『空間切断』を使えば、慎一君を巻き込んでしまう……
もう少し……
もう少し…慎一君から離れたら…。
零の目が、
カマキリと慎一君の距離を見定める。
だが……
カマキリが動きを止めた。
「あなた……普通の人じゃないですね……」
零の心臓が跳ねる。
「おかしなオーラを纏っている……人間より……我々に近い存在だ……」
カマキリが鎌から滴る液体を舐める。
「どうです?……我々の方に来ませんか?」
甲殻に覆われ、表情が作れない筈の顔が、
ーーニヤリ
と、微笑んだように見えた。
「ふざけるな!誰が、貴様らの仲間なんかに、なるか!!」
零が恐怖を抑え付ける勢いで叫ぶ。
その叫びが……
地下フロアに木霊する。
「う……うう……ん……」
闇の奥から、はっきりしない声が聞こえた。
「慎一君!?」
ライトを4本足の妖魔に当て、零が期待を込めて叫ぶ。
「うわあぁぁ!……眩しいよぉ……」
零はライトを下げる。
「慎一君!」
「誰……?昨日の……お姉ちゃん……」
「そうよ、慎一君!昨日…岡田さんと話をした、お姉ちゃんよ!」
「お姉ちゃん!助けに来てくれたの!?」
零は……
言葉に詰まった……。
ーー助けたい……
いや……
廃墟を崩壊させた糸の話を聞きたい……
だが……
それ以前に……
自分達も…
囚われの身なのだ。
慎一君の期待に、応えられない自分の不甲斐なさに。
零は。
黙っているしか、出来なかった。
「ははは…。お姉ちゃんも…捕まったんだよ…。残念だったね…慎一君…」
カマキリが冷たく言い放つ。
「大丈夫よ!きっと助けてあげるから!」
それは、約束ではなく。
零の希望だった。
「う…ううっ…」
零の後から、苦痛を堪えるような声が漏れた。
最初。
その声は、右腕を撃たれた中林のものかと思ったが。
中林ではなく。
すっかり人が変わってしまった宮本の声だった。




