第五十二章
宮本が、ゆっくりと近づいてくる。
その時。
零の視線が、宮本の腰に向いた。
違和感。
装備は、揃っている。
拳銃も――握られている。
だが。
マガジンポーチが……
……空だ。
2つ入るポーチに1つも、入っていない。
嫌な汗が、背中を伝う。
インカムで聞いた銃声は、二発。
それだけだ。
なのに。
予備マガジンが、すべて無い。
あり得ない……
ことではない。
もし。
多数の妖魔化したネズミに襲われたとしたら…
もし。
強力な敵が現れ……
何発も撃ち込んだとしたら…
つまり。
あの“途切れた時間”に…
何かがあった。
宮本が、笑う。
「隊長……行きましょうか……」
声が、冷たい。
「……どこへ行く」
問い返す。
宮本の首が、ゆっくりと傾く。
「慎一君が……待っていますよ……」
その名前が出た瞬間。
空気が、変わった。
慎一。
あの時。
廃墟が崩落する直前――
壁や天井に張られていた、蜘蛛の糸のようなもの。
それが。
一斉に。
下へ、引かれた。
見えない何かによって。
理解が、追いつく。
もし…。
あの糸を張り巡らせたのが慎一君で……。
糸を引っ張り。
廃墟を崩落させたのも…
零の中に、後悔と悔しさが溢れ出す。
私が……
甘かったのか……
慎一君を
信じた
私が……
宮本が、一歩、近づく。
「立て……」
拳銃で撃ち抜いた、中林の腕を掴み、引き上げる。
「うぐっ……いて……」
苦痛の声を上げる中林を立たせ。
「行きますよ……東雲……隊長……」
その顔に、
余裕と
喜びが
浮かんでいた。




