第四十七章
「中林、生臭い臭いが強くなってないか」
廃墟を進む零が、口にする。
「はい…。自分もそう思います。これって…慎一君の…臭い…でしょうか…」
零は、昨日の出来事を思い出していた。
照りつける日差しの下。
岡田氏と慎一君に、会った。
しかし……。
こんな臭いは……
しなかった。
廃墟だから?
風通しが悪いから?
そう思いたかった……。
だが…。
現実は。
濃くなっていく悪臭に比例して。
嫌な予感も。
大きくなっていく。
ーーガタン!
突然、瓦礫が崩れた。
ガチャ!
後を歩く中林が、ライフルを構える。
「止めろ!こんな廃墟で、ライフルを撃つな!」
ライフルを構える、中林の身体が震えている。
零も。
震えていた。
逃げたかった。
しかし。
逃げ場は無かった……。
廃墟から出る。
今は、それだけを考え。
行動する。
零は、ゆっくりと中林のライフルを下げ、代わりに拳銃を持たせた。
拳銃を持つ手が、さっきより大きく震えている。
「た……隊長……。あ……あれ……」
零が振り返る。
2人の目の前には、数匹の妖魔化したネズミが、こちらを見ていた。
一匹のネズミの目は、三つあった。
左右と、正面。
尻尾が二本、揺れている。
いや──それは、蛇だった。
別のネズミには、四本の脚のほかに、二本の手のようなものが生えている。
その先端には、小さいながらも鋭い爪を持っていた。
さらに、別の一匹は。
首が、伸び縮みしている。
上顎には、毒ヘビを思わせる牙が二本、突き出ていた。
ネズミの口が少しだけ、開かれた。
ギギィ……
ギギ…ギギィ……
ネズミが鳴いた。
中林の顔が引きつる。
零はホルスターから、拳銃を抜き、首が伸び縮みするネズミの胴体に狙いをつけ、撃つ。
ーータン!
乾いた銃声が、廃墟に不気味に響く。
首が伸び縮みするネズミは、胴体が千切れ、黄色の液体が辺りに飛び散る。
残りのネズミが散らばり、瓦礫に姿を隠す。
インカムから、宮本の声が聞こえる。
「隊長!今、銃声らしき音が聞こえましたが…」
「ああ。ネズミが出た」
「……妖魔化したヤツですか……」
「そうだ……。そっちも気をつけろ!」
「了解……」
零が中林を見ると、拳銃を握ったまま、まだ震えている。
「中林!中林!」
零が中林の肩を揺する。
中林は、我にかえり、辺りを見回す。
「ネ……ネズミは……」
「一匹は始末した。残りは、散らばって、隠れたよ…、」
中林は、緊張が解けたように力が緩む。
「緊張を解くなよ。隠れられたほうがマズイんだ…。何処から襲ってくるか、わからないからな……」
「は……はい!注意します!」
「期待してるからな…」
零は、優しく言ったが、内心は中林をどうやって守ってやるか、考え始めていた。




