第四十五章
零が目を開けると。
まだ。
砂埃が舞い上がっていた。
視界が悪い。
空気も悪い。
零は、ポケットからバンダナを出し、2つ折りにしてマスクのようにし、後頭部で結び、首に巻いていたシュマーグをその上から巻く。
その後、ヘルメットに付けておいたゴーグルを装着する。
「平井隊長!平井隊長!」
インカムに呟くが、返事はない。
「誰か…応答出来るか」
「こちら…宮本。東雲隊長ですか…」
ライフルマンの宮本が、返事を返す。
瓦礫崩壊時は、零の後にいた筈だ。
「怪我は無いか」
「大…丈夫…です…」
やはり砂埃が舞っているのか、息苦しそうだ。
「バンダナとシュマーグで、簡易マスクを作れ!呼吸が楽になる」
「了解…」
零はベルトからライトを取り出し、周囲を確認する。
ゆっくり。
ゆっくり。
手が見えた。
しかし…。
肘から先は。
瓦礫の下敷きになっており、瓦礫の下から赤い液体が散っていた。
砂埃が舞う中、ライトの光に、横たわる隊員が見えた。
周囲に警戒しながら、近づく。
ライトの光に、新人の中林の姿が照らされる。
「中林!」
零は叫びながら、中林に走り寄り、怪我をチェックする。
怪我は無い…。
「中林!中林!」
名前を呼びながら、中林の頬を叩く。
「う…ううん…」
中林の目が、ゆっくり開かれる。
「隊長…」
「いきなり動くな…首や背中に痛みはないか…」
中林が、ゆっくりと身体を起こす。
「だ…大丈夫です…ゴホッ!」
砂埃を吸い込み、咳き込む。
中林のポケットから、バンダナを取り出し、マスクをしろと伝える。
「宮本!そっちは大丈夫か」
「はい…。しかし…藤田が…」
藤田は、宮本のバディ(相方)だ。
「藤田の姿が見当たりません…」
「そうか…。ライトで周りを確認しろ!負傷者がいるかも知れない。こっちは、中林を見つけた…」
「了解しました」
中林がゆっくり立ち上がり、ライトを取り出し、周囲を確認する。
「あれ…」
「あの時計…」
中林の身体が震え始める。
「……吉田!……吉田あ!」
先程見つけた、瓦礫の下敷きになった腕を見て、中林が叫ぶ。
「吉田…」
言いかけて、零は口を閉じた。
「……間違いないのか……」
零の言葉に、中林が頷く。
「はい…。あの腕時計…吉田が配属が決まった時に買ったと言って見せてくれた時計です…」
中林は、涙を流していた。
零の目頭にも、熱いものがこみ上げてくる。
零は、拳を強く握り。
「ここで立ち止まるな。出口を探すぞ」
そう言うと、吉田の腕に背中を向けて歩き始めた。
中林は、少しの間、動かなかった。
「……生きて戻る。それが、今やるべきことだ」
一瞬の沈黙……
「……了解しました……」
中林は、涙声で頷き、吉田に敬礼をして、零の後に続き、出口を探し始めた。




