第四十四章
平井の隊が、慎重に廃墟内部に入って行く。
ポイントマン(先頭)が、血痕を追いながら歩き、そのバディが前面から上部の警戒にあたる。
ポイントマンから平井に報告が入る。
「隊長…蜘蛛の巣状の糸が…」
平井と零の視界にも、ぼんやりと輝く、太さ5ミリくらいの蜘蛛の糸が見えてきた。
「平井隊長…この糸って…慎一君の…」
零が呟く。
「ああ…。なら、いいんだが…。どうしても…嫌な予感が消えねぇ…」
角を曲がり、崩れかけた瓦礫を越える。
零は、後の新人を振り返える。
零の隊の新人2人は、廃墟内部の任務は始めてのため、緊張より恐怖が大きいように見えた。
外では第5小隊の江崎小隊が廃墟外周の護衛任務についており、廃墟から出てくるものと、廃墟に近づくものを警戒している。
「平井隊長…」
ポイントマンから連絡が入る。
「どうした」
「血痕が…地下に続いてます…」
全員が息を飲む中、平井だけが薄笑いを浮かべる。
「どうしても…俺達を招きたいってか…」
「平井隊長、引き返しましょう!この人数で『成功作』が何体も待ち構えていたら…」
零が平井に進言する。
「飛んで火に入る特異隊だな…。……一旦、引き返すぞ。江崎隊長、聞こえますか」
「こち…崎。も…度……」
廃墟内の壁に邪魔されて、インカムが届かない。
「テールガン(最後尾)、引き返す。慎重に行けよ!」
慎重に、歩を進める。
天井や壁に張り詰めた、黄色の蜘蛛の巣状の糸が妖しく光っているように見える。
そのとき。
――ピン、と。
糸が、鳴った。
誰かが触れたわけじゃない。
風も、ない。
それでも。
天井に張り巡らされた糸が、わずかに震えた。
一本。
また一本。
まるで、どこかから“引かれた”かのように。
零は、反射的に見上げる。
光が届かない天井の奥。
何も見えない。
――だが。
“見られている気がした”
隊員が、出口に着いた瞬間…。
天井や壁に張り巡らせられていた黄色の蜘蛛の巣が、下に引っ張られた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ミシ……ミシミシミシ……
廃墟が、軋む。
次の瞬間。
バキィィィィン!!
天井が、割れた。
ガシャァァン!!
ズドン!!
瓦礫が、降る。
「うわあぁぁ!」
前方の隊員が振り返る。
その顔に、影が落ちた。
次の瞬間。
潰れた。
横で伸びた腕が、瓦礫の下に消える。
ザァァァァァ……
砂埃が、一気に視界を飲み込んだ。
「全員退避!落下物から身を守れ!」
平井の叫びと、廃墟が崩壊する振動と揺れが全員を襲う。
広い。
廃墟の中。
砂埃が舞い。
瓦礫が光を遮断する中。
何人かの隊員は。
瓦礫の下敷きになり。
砂埃が、すべてを覆い尽くす。
声が、途切れる。
そして。
誰が生きているのかすら、分からなくなった。




