第四十一章
翌朝。
零と平井は、特異隊の建物で一夜を明かしていた。
昨晩ーー
特異隊からの連絡で、岡田氏と会った場所に妖魔が出現し、妖魔同志の戦闘があったことを伝えられると、平井と共に司令部に入ったのだが。
岡田氏等、『失敗作』を全滅させるために、『成功作』が送り込まれたこと。
『成功作』は、今までの妖魔には無い力を持っており、対応に当たった、渕隊長と冨田隊長の隊が異能者を含む多大な損害を出しながら、かろうじて妖魔を倒せたこと。
慎一君とおぼしき妖魔が現れたが、戦闘終了後に、いくら捜索しても見当たらなかったこと。
次々と状況悪化の通信が入り、応援要請を受けた江崎隊長の第5小隊と吉尾隊長の第7小隊が現場に急行する中、零と平井は、隊員の呼び出しをするか考えていた。
幸い。
渕隊長と冨田隊長の部隊だけで事態は沈静化したが、残された課題は、多く――そして、どれも軽くはなかった。
零と平井は、休憩室の中で、冷めたコーヒーをテーブルに置き、無言で椅子に座っていた。
「零…。岡田さんとの約束…、少し早目に行こうと思うんだが…」
平井が、冷めたコーヒーカップを見ながら呟く。
「はい…。私も…そう思っていました…」
またしても、沈黙が降りる。
「昨日…、渕や冨田さんに声をかけてきた…四つ足の……」
平井は躊躇いながら、言葉を出す。
「妖魔……な。慎一君だと思うか」
平井のストレートな質問に、零も考えながら、言葉を出す。
「慎一君で…あって欲しい…、というのが本音ですね。後…『成功作』との戦闘現場を隊員達に見せておきたいと考えてます」
「だよな…。江崎さんの予感が、最悪の形で現実になっちまったからな…」
平井は腕時計を見て、
「もう少ししたら、渕が来るな…。アイツの話を聞いてから、詳しく決めるか…」
「そうですね…」
しばらくすると、渕が疲れた顔で現れた。
「昨日は、大変だったらしいな」
平井が、神妙な顔で声をかける。
「ああ…。まさか、こんなに早く『成功作』が現れるとは、思ってなかったからな…」
渕が疲れた声で、答える。
「慎一君らしき……人……を見たと聞いたんですが…」
渕が零を見る。
「うん…。見たといえば、見たけど…。戦闘中で夜間だったからな…。おまけにライトを当てる隙もなかったし…」
「そうですか…」
「けど…、俺は慎一君だと思うよ」
渕の言葉に零は、顔をあげる。
「彼は、こう言ったんだ…」
『そいつらが、おじさんや、みんなをやったんだ!!』
「とな…」
「そうか…」
平井は、納得した様子だが、零には意味が、わからなかった
「え。今の言葉にヒントがあるんですか」
渕と平井が零を見る。
2人の身長は175センチ以上あるのに対して、零は160センチしかないため、見下ろされる感じになる。
「オマエなぁ、慎一君じゃないと、俺達が捜しているのが、岡田さん…慎一君から見たら…おじさん…だとわからないだろ」
平井が少し、皮肉を混ぜて話す。
「あ。なるほど…」
零の反応に、平井は頭を掻く。
「あと…慎一君だと思う理由は脚なんだ」
この言葉には、平井も反応する。
「『成功作』は…脚が…違うのか…」
「俺も、断言は出来ないが、『成功作』は蜘蛛やカニのような昆虫系の脚だったんだ。長い脚を横に広げる感じの。けど…瓦礫から出て来たのは、太い脚が下に出てたんだ…。慎一君みたいに…」
2人は、渕の話を黙って聞く。
こういった、小さな意見が、自分や仲間の命を救う貴重な材料となることを、経験から知っているのだ。
「ありがとうございます、渕さん。勉強になりました」
零は、頭を下げた。




