第四十章
今までにない静けさの中。
カニ妖魔の脚が、瓦礫を擦る音だけが響く。
「内田…」
戦死した仲間の名前を、堺が小さく呟く。
タァーン!
一発の射撃音が、静けさを引き裂く。
その弾丸は、石川が妖魔に撃ち込んだ、反対側の傷口に命中した。
「ぎゃあああ!!」
妖魔が苦痛と恐怖の混ざった声をあげる。
必死に移動しようともがくが、ほとんど進めない。
タァーン!
タァーン!
セミオート(単発射撃)の発射音が続く。
的を外さず、発射された弾丸は傷口から体内にめり込む。
傷口から、妖魔の血が飛び散り。
滴る。
変色した血が地面に落ちると、コンクリートを腐食させた。
その色は、黒く変色していた。
カニ妖魔の背中も、白と紫色だった甲羅が黒く変色しつつあった。
コポ……
コポコポコポ……
妖魔の口から、泡が立ち始めた。
渕のインカムに、堺から連絡がはいる。
「こちら堺。残弾無し。全弾命中!」
「こちら、新田。残弾無し。全弾命中!」
全てのライフルマンが、
残弾無し。
全弾命中!
の報告を終える頃。
カニ妖魔は、あお向けに倒れ、動かなくなっていた。
医療担当が、負傷者の手当てに奔走する中、他の隊員は動かなくなっているカニ妖魔の周りに集まっていた。
「渕さん…。どうして、銃弾に血を付けたんですか」
冨田が、不思議に思っていたことを口にする。
「ああ…。俺も自信があったわけじゃないんだ。ただ、効果があった弾と同じ弾なら、効くだろうと判断しただけだからな。」
「確かに…。けど…なんで人間の血で…」
冨田が、考え込む。
「これは…仮説なんだが…、人間の血が奴等にとって、蛇の毒なんじゃないかと思ってな…」
「蛇の毒……ですか……」
「ああ」
その場にいる全員が、渕の次の言葉を待つ。
「つまり…。蛇の毒は、口から飲み込んだら、薬になるし、害は無い。けど…噛まれて血液の中に入ると、毒になる。」
全員は、黙っている。
「あくまで仮説だ。たまたま血液型の相性が悪かったのかもしれんし、妖魔に刺された際に何らかの物質が体内に入って血液に変化が起きたのかもしれん」
渕は。
全身が黒く変色し、息絶えた妖魔を見る。
「正直…運に恵まれた戦いだったと思う」
全員が、先程までの勝機が見えない戦闘を思い出していた。
「ただ…。今回は、堺班長をはじめ、ライフル班がいてくれたから勝てたんだ。ありがとう、みんな」
ライフル班の顔色に喜びの表情が浮かぶ。
装甲車とトラックの排気音が聞こえてくる。
「支援班が到着か…。引き継ぎが終わり次第、帰投するぞ。全員、ご苦労だった」
全員が敬礼をする。
支援班の車両が、装甲車の横に止まった。
1つの戦いが、今、終わった。




