第三十九章
カニ妖魔に起こった変化は、さらに広がりを見せていた。
黒く。
壊死したような部分が広がり。
背中の外殻さえも、その硬さを失いつつあるように見える。
何より…。
動きがあきらかに、遅くなり。
少し動くと、止まってしまう。
「何なんだよ…これ…。身体が…言うことを聞かない…じゃないか…」
カニ妖魔が、子供の声で呟く。
隊員は、カニ妖魔を警戒しながらも、戦死者や、ライフルを撃てない負傷者から、マガジンを回収していく。
「マガジンを回収したら、戦死者や負傷者の血をマガジンに入れろ!」
「は?マガジンに血液を入れるとジャミング(装弾不良)の原因になりますが…」
隊員の問いかけに、ライフル班、班長の堺が答える。
「隊長命令だ。質問はするな!」
冨田が堺に言い渡す。
「了解!」
ライフルマンに、1人あたり5発の弾丸が生き渡る。
「よし。全員、妖魔の傷口を狙え!なるべく外すな!」
渕の言葉に、堺が答える。
「隊長…。淋しいこと、言わんでください」
渕が堺を見ると、堺は渕を見ていた。
「俺達…ライフルマンは当たっても効果がないライフルで…それでも、必死に腕を磨いているんです…。それに…この弾は、仲間の命なんです…。頼みます。命令してください…。全弾必中…絶対外すな!と…」
それは、異能を持たない隊員の願いではなく…。
心の叫びだった。
冨田の指揮下のライフル班、班長の声が入る。
「俺達なら…針の穴でも通せます!」
ライフルマンの全員が渕を。
冨田を。
見ていた。
冨田も、渕を見て頷く。
渕は、一瞬だけ目を伏せた。
倒れた隊員たちの姿が、脳裏をよぎる。
「全ライフルマンに、命令する。絶対外すな!カニ妖魔の傷口に仲間の無念を叩き込め!これは……弔い合戦だ!」
一瞬の沈黙…
「了解!」
「了解しました!」
「ありがとうございます!」
ライフルマンから、返事が
返ってくる。
カシャ…
カシャ…
カシャ…
あちこちから、チャージングハンドルを引き、初弾を装填する子気味良い音が聞こえる。
「ライフルマン、適時、撃て!」
誰も、もう言葉を発しなかった。
ただ、照準の先にいる“敵”を見ていた。




