第三十八章
「子供の背中が…」
隊員の1人が呟く。
男の子が。
ゆっくり返る。
「言ったろ…。変形が…終わったって…」
渕が『爆芯』を放つ。
しかし。
またしても、躱されてしまい、渕は霞む視界で男の子を追う。
ーーこれ以上被害者を…出すわけには……
男の子に、銃弾が集中する。
何発かは、命中するが、男の子の動きは、止まらない。
「石川、残弾無し」
全員のインカムに破滅の序章のような声が響く。
『姉』と『男の子』の戦闘で、既に、全員の残弾が残り少なくなっていた。
「フルオート(連射)は控えろ!セミオート(単発)で脚の吹っ飛んだ傷口を狙え!」
冨田がインカムに叫ぶ。
渕の方を見ると、冨田を見て頷いてくれた。
タァーン!
タァーン!
ライフルの発射音が響く。
全弾撃ち尽くした石川が、匍匐前進で、腹をハサミで貫かれ、絶命した隊員に近づく。
「藤﨑…お前の弾…借りるぜ…」
石川は独り言のように呟く。
タクティカルベストのマガジンポケットを探ると、フル装填されたマガジンが2つ残っていた。
石川は、マガジンを抜こうとして、その重さに違和感を感じた。
重い…。
マガジンを逆さにすると、中から、藤﨑の血が垂れてきた。
「……」
ーーお前の敵は撃つ…。だから…守ってくれ…
マガジンをライフルに装填し、もう一本のマガジンをベストに突っ込む。
「石川!行ったぞ!」
振り返ると、カニの妖魔と化した男の子が目前に迫っていた。
「うわあぁぁ!!」
横歩きで滑るように迫るカニ妖魔に、ライフルのフルオートが吠える!
ライフル弾はカニ妖魔に命中するが、全く効かない。
「ははは…。言ったろ?そんな…」
突然、カニ妖魔の動きが止まった。
そして…。
「ぎゃあああ!!」
それは、カニ妖魔が初めて上げた“恐怖の声”だった。
「お…お前…何をした…」
妖魔が痙攣しているように見えた。
どうして、カニ妖魔が止まったか理解出来なかったが、兵士としての直感が『チャンス』と判断した。
カニ妖魔の脚が取れた傷口に、ライフルのフルオートを叩き込む。
「ぎぃゃあああ!!な…何を撃ち込んだ…」
カニ妖魔に異変が生じ始めた。
ライフル弾を撃ち込まれた部分が黒くなり、まるで壊死を起こしているようになり、カニ妖魔の動きが、途端に鈍くなった。
「石川!何をした?」
渕の声がインカムに響く。
「それが…。藤﨑の持っていたマガジンを使って…撃ち込んだ…だけです…」
ーー藤﨑のマガジン…。
隊員の使用する弾丸は、みな同じ弾丸だ。
藤﨑の弾丸だけ特別だということはない。
絶対に。
現に、藤﨑も妖魔に射撃を加えたが効かなかった…
なら…
なぜ、今の藤﨑の弾丸は効いたんだ?
「藤﨑の弾丸で、変わったことは無かったか」
「いえ…ただ…」
石川は、言い淀む。
「なんだ?言え!」
「はい。ただ…自分が使った藤﨑のマガジンは…藤﨑の血で溢れていました…」
どういうことだ…
藤﨑の血で濡れていた弾丸は、カニ妖魔に効いているとは…
まさか!
「全ライフルマン、戦死者のマガジンを集めろ。」
渕の命令が、全員のインカムに流れた。




