第三十七章
「くっ…そ…」
異能を使う冨田の額に汗が滲む。
「潰せそうか?」
渕が冨田に期待を込めて聞く。
「わかりません…。コイツ…硬くて…」
冨田の声から、かなり異能を使っているのがわかる。
「冨田さん、重力増加を解いて!」
「え?」
渕の言葉に、冨田が聞き返す。
「重力増加を使い過ぎです。今のままだと、俺の異能も使えません…」
「了解です…。解きますよ…」
「よし!」
冨田が重力増加を解除し、次の瞬間、渕の異能が発動する。
爆芯!
男の子の人間の左脚が、破裂した…。
そう思った瞬間には、破裂した皮膚が。
肉が。
血液が。
霧散していた。
爆発ではない。
それは、内部の分子を強制的に共振させ、内側から細胞1つ、血液の1滴から破壊する「内部爆破」の力だ。
しかし…。
男の子は、重力増加が途切れた瞬間には動いていた。
だから、脚一本の損失で済んだ。
渕が息を飲む。
「イエロー(失敗作)とは…違うんだ…。見せてやるよ…、バイオレット(成功作)の力を…」
子供の声で、呟く。
左右3本の脚を失い、紫色の液体を垂らしながらも、不敵な笑いを浮かべる。
そして…。
男の子の目が、見開かれる。
男の子の目は、どんどん大きくなり、溢れ落ちそうなる。
そして…。
胸にあった顔から、溢れた。
眼球の後にある、視神経が
かろうじて落下するのを防いでいるが、目のあった場所から視神経だけで繋がった状態で垂れて、揺れている。
その目が。
持ち上がる。
垂れていた目玉がグイッと持ち上がり、肩より、30センチも高く持ち上げられ、左右が独立して、周囲を確認している。
隊員が立ち上がり、ランチャーを構える。
男の子の目が、ランチャーを構える隊員を見る。
ランチャーが発射される。
男の子は背中を向けた。
爆発。
爆風が隊員を包む。
辺りを、砂埃が隠す。
隊員の誰1人、これで終わったとは思っていない。
ランチャーを所持している隊員が、最後のランチャーを構える。
砂埃の中で。
カチカチ…
硬いモノが当たる音がした。
「やっと…変形が…終わったよ…」
男の子の声がした。
「許さないから…」
収まらない砂埃の中から、影が、滑る。
「ハイ…1つ…」
ランチャーを構えていた隊員の腹に、男の子のハサミが差し込まれていた。
「ぐはっ……」
隊員は、悲鳴をあげる力もない。
もう一方のハサミで、器用に転がっているランチャーを掴み…。
真っ二つに切る。
ゴトン…
ハサミで断ち切られたランチャーが瓦礫の上を転がっていく。
最後のランチャーが。
高く持ち上げられた目は、辺りを見回す。
ライフルが一斉に男の子の方を向く。
その瞬間には、隊員の腹からハサミを抜き、滑るような移動を始める。
速い!
隊員の目で捉えることはできるが、ライフルを向ける間に、さらに移動しているため、狙いがつけられない。
ライフルで応戦する隊員に近づき。
カチャ……。
隊員の脚が、膝から左手のハサミで切られる。
そして…。
倒れ込む隊員の背中に、右手のハサミを刺す。
「ぐふっ!」
隊員が口から、血を吐き出す。
「2つ…」
その瞬間。
渕は…。
いや…。
他の隊員も、男の子の変化を目にした。
男の子の背中は、カニの甲羅のように、少し盛り上がり、凸凹がついて、明らかに皮膚ではなく、硬質の鎧と化していた。




