第三十六章
「まったく…。役に立たないじゃないか」
男の子が、溜め息混じりに呟く。
「あんな女…、バイオレットになる資格無かったのに…」
特異隊の隊員が、男の子に銃口を向ける。
「そんなオモチャじゃ、遊びにもならないよ」
男の子の身体が、変わり始める。
カニのようなハサミをした腕が伸び、脇腹からカニの脚が左右3本づつ生えてきた。
頭が胴体に沈み込み、胸の辺りに顔が埋まる。
「ランチャー準備!発射可能な者から、撃ちまくれ!」
渕の命令に冨田が、疑問を口にする。
「渕さん、それじゃあ敵の数を増やしてしまいます」
渕は、男の子を凝視したまま答える。
「わかってますよ…。しかし…ライフルで倒せる相手だと思いますか」
「……」
冨田にも、答えはわかっていた。
「ランチャー準備よし!発射!」
心地よい発射音が響き、ランチャーが男の子に向かい飛んでいく。
男の子は、躱そうと横移動するが、変形途中のためか、少し動きが遅れた。
爆風が隊員に襲いかかり、瓦礫が破片と砂埃を撒き散らす。
もう、隊員の誰もが、この程度の攻撃で、男の子が倒れるとは思ってなかった。
砂埃が収まるより早く――
影が、横に滑った。
次の瞬間。
隊員の首に、冷たい感触が乗る。
――遅れて、気づく。
ハサミだ。
理解した時には、
もう、身体が繋がっていなかった。
視界が、回る。
上下も、左右も、わからない。
『ゴロン』
鈍い音と共に、視界が地面を転がる。
その途中で――
自分の身体が、首から血を噴き上げているのが見えた。
その背景で、男の子がハサミを首の位置に閉じた状態で、立っていた。
首から、血が迸る。
「柿本…」
隊員の1人が、声を漏らす。
柿本の身体が、棒のように前に倒れると、男の子の右側にランチャーのダメージが見受けられた。
人間としての右脚と、脇腹から生えてきたカニの脚の一本が吹き飛ばされていた。
脚が生えていた場所からは、紫色の血が垂れている。
安河内が『生体剣』を振り降ろす。
男の子は、脚を二本失っているとは思えない速さで、滑るように横に移動し、『生体剣』をギリギリで躱す。
「このぉ!」
安河内が『生体剣』を横殴りに疾走らせる。
男の子は前に倒れ込み、安河内の『生体剣』をやり過ごす。
冨田が立ち上がる。
重力増加!
ミシミシ…
あまりの重力に、男の子の周りの空間が歪み、瓦礫が崩れ砂になる。
「ぐっ……かはっ……」
男の子の口から、空気が漏れる。
ギギギ…。
骨が軋む。
ズシャ!
男の子が、地面にめり込む。
カニの脚が、地面を掻く。
それでも動こうとする。
隊員の1人が、ランチャーを発射する。
「バカ!」
渕が叫ぶ。
ランチャーは、男の子に向かい『重力増加』のエリアに入った途端…。
ゴン…
金属が凹む音が響く。
地面に押し付けられ、その重力で、ひしゃげてしまった。
男の子の表情が、苦痛に歪み始めた。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




