第三十章
瓦礫を揺るがす轟音が轟き、遮蔽物に隠れた隊員の身体を地響きが揺らす。
姉弟の身体が、巨大な炎の塊に飲み込まれた。
4発のランチャーが、寸分の狂いもなく「姉弟」の立っていた場所へ着弾したのだ。
凄まじい衝撃波が廃墟の壁を叩き、飛び散った瓦礫が装甲車のヘッドライトのいくつかを叩き割る。
ヘッドライトの光さえも、濛々と立ち込める爆煙に遮られた。
「……やったか?」
誰かが呟く。
隊員たちはライフルを構えたまま、引き金にかけた指を離すことなく、その煙の向こう側を凝視していた。
「冨田さん! ランチャー次弾用意! 異能者は発動準備!」
渕の怒号が、爆発の余韻を切り裂く。
彼は感じていた。
あの「紫の血」を持つ存在が、この程度で終わるはずがないと。
彼の背中に張り付いた嫌悪感は、まだ消えていない。
風が吹いた。
ゆっくりと、カーテンをめくるように爆煙が晴れていく。
「……嘘だろ」
誰かの声が、インカムに届く。
暗視装置越しに、冨田が息を呑む。
そこには、直径数メートルのクレーターが出来ていた。
その中心に。
1つのシルエットが、揺らぎながら立ち上がる。
「ギギギ……、アハハハハ!」
煙の中から、あの「子供」の笑い声が響いた。
だが、それはもはや人間の子供の声ではなかった。
金属を擦り合わせるような、耳障りな、狂気に満ちた笑い声だ。
ヘッドライトの光が、再び彼を照らし出す。
「……熱いじゃないか、オジサン達……」
子供の声で呟く。
それが、嫌悪感を強くした。
「男の子」は、姉が庇っていたためか、全身が焼け爛れ、黒く焦げていたが、表情一つ変えず、立っていた。
しかし。
「姉」には、ランチャーが一矢報いていた。
弟をその身で庇い、直撃を真っ向から受けた「姉」の肉体は、凄まじい衝撃波によってバラバラに破壊されていたのだ。
爆風で吹き飛ばされた彼女の頭部と左腕は、辛うじて繋がったまま、一人のライフルマンのすぐ真横へと転がった。
さらに、巨大な爪と化した右手は、渕の副官であるB級異能者・平石の足元へ。
そして、千切れた左脚は、冨田の至近距離へとそれぞれ叩きつけられていた。
「1体、始末したぜ!」
隊員の叫びに、緊張がほんの一瞬だけ緩んだ。
インカムに隊員の喜びの声が響く。
「あーあ、知らないよ。お姉ちゃんを、怒らせちゃった…」
「男の子」の言葉に、隊員が「姉」のバラバラになった肉片を見る。
ライフルマンの横に転がっている頭部と左腕が繋がた断片は、紫の液体を出している。
その、力無く空を見ていた「姉」の目が、明らかな意思を持ってライフルマンを睨む。
「うわあぁぁ!」
その様子を見たライフルマンが叫び声を上げる。
断面から細い触手が何本も伸びてきて、何かを探しているように蠢き回る。
ライフルマンが、恐怖から、頭部に連射する。
「姉」の断片を、ライフル弾が穴だらけにする。
「やった…」
喜びは、僅かな時間だった。
ライフル弾によって開けられた穴から、蜘蛛のような脚が生えてきて、頭部を持ち上げ、左腕の爪を殺意を込めて振り上げた。




