第二十八章
廃墟の出口。
装甲車の強力なヘッドライトが、白々とした暴力的な光を闇に突き刺していた。
その光の渦の中に、女と子供がいた。
「うわあぁぁ! やめてよぉ! 撃たないでぇ!」
子供が、喉を掻き切るような悲鳴を上げる。
女は、その光から子供を守るように、覆い被さるように抱きしめた。
自らの背中をライトに向け、鋭い二本の爪を身体の前に隠すように丸まっている。
その姿は、どこからどう見ても、無慈悲な光に晒された弱き犠牲者だった。
わざとか……?
渕の脳裏に、出撃前の不気味な予感が疼く。
監視モニターに映った「2体」。
そして今、目の前にいる「2体」。
あまりにも、計算され尽くしたかのような献身。
あまりにも、完璧すぎる「姉弟」の構図。
しかし。
ライトに照らされた二人は、小刻みに、激しく震えていた。
その震えは、演技にしてはあまりにも生々しく、本能的な死の恐怖に見える。
考えすぎか……。
俺は、何を疑っている?
渕が迷いを生じさせたその時、インカムに冨田の押し殺した声が割り込んだ。
「……渕さん。岡田氏らしき遺体を発見しました。……正面から、一気に引き裂かれています。……胸部から腹部まで、一太刀でした……」
渕の視線が、女の背中に隠された、あの巨大な「二本の爪」に吸い寄せられる。
渕は唾を飲み込んだ…。
「慎一君は……?」
「……発見できませんでした」
通信の向こう側に、重苦しい沈黙が流れる。
現場の空気は、発火寸前のガソリンのように煮えたぎっていた。
その時だった。
「……そいつらだよ!!」
瓦礫の山、その深い影の奥から、裂けたような声が響いた。
「そいつらが、おじさんや、みんなをやったんだ!!」
隊員たちのライフルの銃口が一斉に、声のした闇へと向けられる。
そこには、光が届かない不気味なシルエットがあった。
複数の脚が瓦礫を掴み、フラフラと立ち上がっている。
4本足で。
蜘蛛型の、妖魔……。
暗視装置越しに見えるその姿は、まぎれもなく異形だった。
指一本動かせば、耐妖魔ライフルとランチャーがその影を木端微塵に粉砕する。
「くっ……!」
誰かが、極限の緊張に耐えかねて声を漏らす。
「待て! 撃つな!!」
渕が、裂帛の気合を込めて叫んだ。
光の中にいる、紫の血を流す「可憐な姉弟」。
闇の中にいる、人間の言葉を叫ぶ「醜悪な蜘蛛」。
引き金にかけられた隊員たちの指先が、狂おしく震えていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




