第二十六章
装甲車のキャラバン(隊列)が減速する。
現場が近づく。
渕はモニターを確認する。
サーモセンサー…反応無し。
動体反応…無し。
渕が上部ハッチを開ける。
夜風が、鼻を突く臭いを運んでくる。
崩れかけた廃墟が、風の音を不気味な音に変えている。
動くものは無かった。
遅かった。
辺り一面、黄色の粘液を撒き散らしたかのように、半妖魔化した元民間人の血液が飛び散り…
妖魔と…
人間の…
身体らしきものが散乱していた。
何かが引きずられた跡もあった。
「ドライバーと砲手を残し、全員降車。すぐに第1戦闘配置。右手の廃墟に注意!」
後部ハッチが開き、隊員が散らばり戦闘態勢を取る。
冨田が近寄り、
「渕さん…どうします?先に廃墟を調べますか…それとも…」
黄色の血液と、転がるバラバラの身体の残骸を見ながら、
「岡田氏を…探しますか…」
渕も、すぐには答えが出せなかった。
「冨田さん…ランチャーを装備したライフルマン4人を護衛として、岡田氏と慎一君を探してもらえますか…。2人を知ってるのは、俺と冨田さんだけですから…」
「…わかりました…。第1小隊、降車したライフルマンは
ランチャーを装備後、俺の元に集合。異能者は渕隊長の指揮下に入れ」
「よし、廃墟に入る者は、ランチャーを置いて行けよ。廃墟でランチャーなんか撃ったら、どうなるかわかるだろ」
異能者、ライフルマンがランチャーを廃墟入り口に立て掛ける。
「冨田隊長…」
「どうしました」
冨田が渕に聞き返す。
「もし…隊員無しで…民間人を名乗る半妖魔が出て来たら…」
渕が言いにくそうに言う。
「ダメですよ。そんなこと言わないでください…」
「わかってます…。ただ…。万が一…そういう状況がきたら…」
冨田は少し俯いたが、はっきりした声で答えた。
「その時は、ランチャーを打ち込みます…」
「…頼みます…」
渕も冨田も、わかっていた。
今回の妖魔が普通の妖魔ではないと。
おそらく。
知性がある。
罠かもしれない…。
それも…。
ずる賢い…。
人間の。
そして…
最悪の場合…
今までの妖魔より強力だと。
「入るぞ」
ライフルマンを先頭に、廃墟に足を踏み入れる。
夜の廃墟の中は、まさに『闇』だった。
全員が暗視装置をセットする。
廃墟の外とは比べものにならない酸っぱいような、腐ったような異臭が隊員の鼻を突く。
「うっ…!」
インカムに、息を詰まらせる声が聞こえる。
廃墟の外だけでなく、廃墟内部も、黄色の血液が辺り一面に飛び散り、肉片と化した身体が転がっている。
「ひでぇ…」
誰がが、呟く声がインカムに聞こえてきた。
黄色の血液の中、渕は、岡田氏と慎一君を探す。
しかし…。
これだけバラバラにされて、暗視装置越しとなると見落とす可能性も高くなる。
「この中にいるはずだ…」
そう考えながら、辺りを見渡す。
カタン…
全員が息を潜め、動きを止める。
ドクン…!
ドクン…!
渕は、自分の心臓の音が耳の奥で跳ねるのを感じた。
静まり返った廃墟の闇に、その鼓動だけが浮き上がる。
罠だ――。
頭のどこかが、反射的にそう告げていた。
しかし。
確認しないわけには、いかない。
近くの隊員が、音のした方に、ゆっくりと足音を立てずに進む。
渕はインカムのマイク部分を指先で2回軽く叩く。
声を出さずに、戦闘態勢を取らせる合図だ。
カチャ…
小さな音を立て、耐妖魔ライフルの安全装置が外される。
異能者は、発動態勢をとる。
隊の後部の者は、後部と側面の警戒態勢に移る。
戦闘態勢が整ったのを確認すると、渕はインカムのマイクを1度だけ、軽く叩く。
先頭の隊員が、渕を見る。
軽く頷くと、ドアノブに手をかける。
「…」
ドアノブを持つ手が、ゆっくりと回る。
ギィィィ……
ドアが開く。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




