第二十三章
「これからの会話は、録画させてもらいます。あなたからしたら、気乗りしないかも知れませんが…。私達も仕事で、上に報告しなければなりませんので…」
零が、男に録画する旨を伝える。
「構いません…。いつかは…この日が来ることを…わかっていましたから…」
男は慎一を見ながら呟く。
「中林、録画を」
「はい」
中林は、スマホを出して録画を開始する。
零が確認し、
「お願いします」
と男に促す。
「先ずは、名前を教えてもらえるかな?」
平井が男に問いただす。
「岡田 洋介だ。地震の前は◯◯町に住んでた。この子は慎一。近所に住んでた子供だ」
平井は頷いて洋介に言う。
「詳しく話してもらえるか」
洋介は、深いため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。
「全ては、あの地震からだ…。犠牲者は大勢いた…。けど…生き延びた人も大勢いたんだ…。」
ライフルマンが周囲を警戒する中、零も、平井も男の話に耳を傾けている。
「みんな…負傷者の救出や、家族の名前を呼んで…そりゃ…地獄みたいだったさ…。
そこに、奴らが来たんだ…」
四つ足で地面に張りついた慎一は、目を伏せ、顔を背けた。
「奴らは、警察だと言ったんだ…。負傷者の救助は…レスキュー隊に任せて、余震で建物が崩壊する可能性があるから…安全なシェルターに避難しろと…」
男の表情は。
思い出したくない。
許せない。
それらが、混じりあっていた。
「みんな…避難したさ。そいつ等に感謝し、礼も言った。」
零も。
平井も。
誰も…喋らない。
「連れて行かれたのは、廃墟の地下だったよ…。暗い…手掘りのようにな通路を歩かされ…。不気味な祭壇らしきものがあった。祈り…呪文…よく分からない言葉を唱えてる奴が何十人もいた…。ここで、おかしいと思ったんだ…。どう見ても公共施設とは違う。明らかに…なんか…良くない場所だと…。説明出来ないが…本能が叫ぶんだ…」
「逃げろと…」
零は想像していた。
暗い地下洞。
壁はコンクリートではなく、岩が剥き出しのまま、露呈している。
奥から聞こえる悪魔めいた呪いの声。
そして…
見えてくる不気味な祭壇らしきもの…
祭壇の前には、大勢の人間が膝を付き、頭を垂れて、本能が拒否する呪文を唱えている風景を。
思わず、鳥肌が立つ。
「ここに入れ…と言われた時は…もう…遅かった…。そこは…鉄格子で逃げられないように作られた…牢屋だったんだ!」
最後の言葉は、叫びに近かった。
「奴ら…俺達を押し込め…、一人づつ連れ出したんだ…。帰ってこない奴もいたよ…」
「俺に点滴を打ち…。激しい痛みが全身を襲ったよ…」
「妖魔化する苦しみが、わかるか……肉が裂け、骨が縮み、神経が燃え上がる痛みだった…」
男の頬に涙が落ちる。
慎一の嗚咽が聞こえる。
零は、妖魔化した男の涙に、彼の人間としての悲しみを感じた。
「俺達は…失敗作だったんだよ…。奴ら…俺達を…こんな身体にして…。妖魔のいる瓦礫に置き去りにしやがった…」
平井が拳を握る。
「本当なんだな…、今の話…」
平井が怒りを押し殺して聞く。
「ああ…。好き好んで…こんな身体になる奴がいると思うのか!」
「…くっ…、許せない…」
零が漏らしたその言葉は、その場にいた全員の気持ちを代弁していた。
「だいたいの事情は、わかった」
平井が話す。
「だが…、まだ、その話を信用するわけにはいかない」
「ああ…。わかってるよ…。俺の話がでっち上げだと言う可能性があるからな…」
平井は苦虫を潰した表情になる。
「そのとおりだ。申し訳ない…」
沈黙が流れる。
「今の話を持ち帰り、上の者と相談させてくれ…」
「君達の立場は理解している。それで構わん」
「なるべく…お前等を保護するようには働きかける。これは約束する」
「ありがとう…」
「明日、もう一度、ここに来る。それでいいか」
「わかった…。しかし…君も来てくれ…。君が居ない場合…私は姿を見せない」
平井は、
「了解した。また、明日」
そう言うと、
「よし!パトロールの続きを行なう!この人達の安全を確保するんだ!」
全員に声を張り上げた。
この時、誰も気づかなかった。
少し離れた瓦礫の影から、こちらを見ている“何か”の存在に。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




