第二十二章
全員が困惑していた。
それは――妖魔にしか見えなかった。
四本の脚で地面に張りつき、腰から下は、異様に膨れ上がっり、蜂か蜘蛛のように黒と黄色の線が浮かんでいた。
しかし。
その声。
その表情。
ライフルを向けられた時の動き。
明らかに、人間の子供のそれだった。
平井も、対応に困惑している。
その時。
「その子を撃つな!」
別の廃墟の奥から、成人男性の声が反響した。
全員の指が、トリガーで止まる。
「誰だ!」
平井が鋭く叫ぶ。
「その子を、撃たないでくれ……お願いだ……!」
声は、建物のさらに深部から聞こえる。
「民間人か!?」
平井の問いかけに対し、相手は沈黙した。
わずかな、しかし異様に重い呼吸音だけがインカム越しに伝わってくる。
「民間人なのかと聞いている!」
数秒の、永遠のような間。
「……民間人……だった……」
その歪な一言に、零と平井が顔を見合わせた。
だった?
過去形。
その意味するところを考え、零の背筋に冷たいものが走る。
「出て来なさい!話はそれからよ!」
「わかった……。俺の姿を見ても、撃たないでくれよ…」
ザッ…
ザッ…
廃墟の中から、足音が近づく。
どうやら、2足歩行のようだ。
全員のライフルが、一斉に足音のする方へ向く。
八懸も、炎を宿したような目で睨みつける。
「見た目で判断しないでくれ……。俺達は……人間……だ……」
姿を現す前に、もう一度、懇願する。
「敵意を見せない限り、発砲はしない」
平井が、答える。
廃墟の奥から、ゆっくりと“それ”が姿を現した。
零は、息を呑んだ。
——最初に見えたのは。
ボロボロのジャケットだった。
ズボンは擦り切れ、至る所に穴が開いてる。
それは、ボロを纏った人間だった。
しかし。
頭がなかった。
顔はある。
男の顔は胸の部分にあった。
今回は、異常を想像していたのか、吉田は悲鳴を上げず、息を呑み、ライフルを持つ腕が震えた。
「撃たないでくれて、感謝するよ」
胸にある口が、言葉を発した。
「お前らは、何者だ!」
平井が叫ぶ。
相手が民間人なら、この言い方は厳重注意に値するが、今は民間人だと確認出来ない。
あの姿では。
「この街の市民さ。奴らにだまされ、こんな身体にされるまでは…」
「奴ら…?奴らとは…誰のことなの!」
零が叫ぶ。
「慎一…。慎一…、おいで…」
瓦礫の影から、4足歩行の子供が顔を出す。
隊員に射撃する意思がないことを確認すると、頭部のない男の後に隠れる。
「残念だが…正体はわからない…。ただ…何らかの宗教団体だと思っている…」
「宗教団体だと…」
平井が聞き返す。
「ああ…。祭壇のようなものがあったし…、祈りのような声も聞こえたからな…」
零は、男の後に隠れた子供の顔が悲しみに染まるのに気がついた。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




