第二十章
装甲車のエンジン音が止まると、封鎖地区は不気味なほど静まり返った。
さっきまでの激闘が、嘘のようだった。
湿った風が、崩れかけたビルの隙間を抜けていく。
カラン……。
どこかで、乾いた金属音が転がった。
「……急に、静かになったな……」
誰かが小さく呟く。
その時、インカムに司令部からの硬い通信が入った。
「上空ドローンより報告。掃討地点の北東50メートル、半壊ビル内に人体反応を確認」
全員の意識が一斉に引き締まる。
「サイズから推測して……子供の可能性が高い。確認後、必要があれば救護されたし」
零は、無意識に眉をひそめた。こんな地獄のど真ん中に…子供…。
「橘。お前の車両に高杉を乗せろ」
平井が短く命じる。
副官の橘が、苦渋に満ちた表情で頷いた。
「了解しました。……高杉、すぐに運んでやるからな」
橘の車両が前に出て、後部ハッチが開く。
八懸に抱きかかえられた高杉の遺体が、静かに移された。
誰も、言葉を発しない。
「橘、高杉を連れて、そのまま司令部へ戻れ。……俺達は、子供の確認に向かう!」
「了解しました。……平井隊長、東雲隊長、ご武運を」
ハッチが閉まり、装甲車は重い轍を残してその場を離れていく。
残された零と平井、そして数名の隊員たちの間に、鉛のような沈黙が降りた。
「……行くぞ。迷子を迎えに行く時間だ」
平井の声に従い、全員が慎重に歩き出す。
瓦礫を踏みしめる軍靴の音だけが、廃墟の街に響く。
反応があったのは、壁の崩落した商業ビルだった。
窓ガラスは全て割れ、内部はどろりとした暗い影に沈んでいる。
その時。
――ゴトン。
ビルの奥から、何かが落ちる音がした。
全員の動きが止まる。
銃口が、一斉に入口の闇へと向いた。
子供か。
それとも…。
零は一歩、前に出る。
ライフルのストックを肩に当て、ゆっくりと距離を詰める。
部屋の中で何かが動いた。
零が気配のした方を見ると、黒い物体がドアの向こう側で壁の影に消えていった。
「待て!」
零は、暗い廃墟の中で、逃げたものを追いかける。
あれは…
零は後を追いながら、インカムで平井に連絡する。
「平井隊長、動く物体を発見しました。ただいま、追跡してます」
「子供か」
零は、しばらく考え。
「暗くて、はっきりしませんでしたが…」
平井は次の言葉を待つ。
「動きが……四足に見えました」
全員に緊張が走る。
「深追いするな、零!仲間の到着を待て!」
「……あと10メートルだけ、進んでみます!」
「止まれ、零。それ以上は命令違反だ」
零からの、返事はない。
「あの、バカ娘…」
平井は、走って、零の後を追う。
「何枚、始末書を書くつもりだ…」
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




