第十八章
封鎖地区は静かだった。
何処かで、鉄パイプの軋む音がする。
妖魔化した猫は、まだ、何かを食べている。
零の目に、吉田の指先が震えているのが見えた。
吉田が集中し、異能を発動する。
凍芯!
猫の尻尾がピンと立ち、動きが止まる。
そのままの姿勢で倒れ込む。
「やったぁ!」
妖魔化した猫は、身体全体が白く凍りつき、動かなかった。
「よくやった、吉田」
零が労う。
「はい!やりました!」
吉田も、満面の笑みを浮かべ、自信を持ったように見える。
「よくやった、吉田」
インカムから、平井の声がする。
「ありがとうございます、平井隊長」
「しかし、あまり調子にのるなよ。今の雑魚と俺達が戦う妖魔は格が違うからな」
「了解しました」
吉田が上部ハッチを閉め、車内に入る。
「やったな、新人」
同乗しているライフルマンが声をかける。
「はい。やりました」
零はそんなやり取りを見ながら、唇が綻ぶ。
「よし、出発するぞ!」
平井の声が、インカムに響く。
装甲車は、車体を揺らしながら前進を始める。
零はふと、バックミラーを見る。
凍った猫の死体が――消えていた。
?
ーー猫が…消えた…。
死んでなかったのか…
零は平井に報告しようとしたが、少し考え止めておいた。
猫一匹くらいなら、対妖魔ライフルの一発で片がつく。
わざわざ隊を止めるほどでもない。
零はバックミラーを見ながら、自分を納得させていた。
装甲車は、順調にパトロールを続ける。
数匹の妖魔化したネズミが、紫色の肉塊に集っている。
「全車、止まれ!」
平井の指示で装甲車が停車する。
「零、あのネズミをウチの新人に殺らせる」
「了解しました。ライフルマンは、周囲を警戒!」
平井は新人の高杉を指名した。
最前列の装甲車の上部ハッチが開き、若い隊員が上半身を出す。
高杉は…電撃系の異能だったな…
零は、渡された資料を思いだす。
その時。
高杉が上半身を出している装甲車に、小さなものが飛び乗る。
「何?」
と思う感覚と、
「ヤバイ!」
と思う感覚が、同時に零を襲う。
次の瞬間。
高杉の胸が鎗のようなもので貫かれていた。
高杉の下で見ていた平井の顔に、高杉の血がかかる。
「高杉ぃー!」
装甲車に飛び乗ったのは、片目が潰れた猫で、鎗のように見えたのは、猫の尻尾だった。
その尻尾は、血に濡れた槍のように伸びていた。
猫が鎗のような尻尾を引き抜くと、高杉の身体が車内に崩れ落ちる。
抱き止める平井の戦闘服が見る見る血で染まっていく。
猫は、開いてるハッチまで来て、何度も鎗のような尻尾を車内に突き刺す。
キン!
キン!
鉄で鉄を突くような音が車内に響く。
「ぐっ……」
平井の左腕を、鎗が掠め戦闘服に血が滲む。
零が対妖魔ライフルで猫を撃つ。
猫は平井の先頭車両の前まで一気に飛び跳ね、正面から先頭車両を睨む。
「やってくれたなあ…子猫ちゃんよぉ…」
平井の目が怒りに狂っていく。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




