第十六章
数日後。
零は、特異隊本部の廊下を歩いていた。
身体が少し重い。
腕の包帯は取れている。
まだ少し痛むが、戦えないほどではない。
医師からは
「軽任務なら可」
という診断が出ていた。
中隊長室の扉をノックする。
「入れ」
加藤中隊長の声だった。
零が入ると、加藤は書類を見ながら言った。
「東雲隊長」
「はい」
「始末書は読んだ」
零は背筋を伸ばす。
加藤は一枚の紙を机に置いた。
「処分はこれだ」
零が目を落とす。
そこには、
『厳重注意』
と書かれていた。
零は思わず顔を上げる。
「……それだけ、ですか」
加藤は肩をすくめた。
「本来なら停職だ」
「だが」
江崎は零を見る。
「妖魔を倒したのは事実だ」
「それに――」
少し笑う。
「ゴジラが出たらしいからな」
零は吹き出しそうになった。
「……誰がそんなこと」
「知らん」
加藤は立ち上がる。
「東雲」
「はい」
「明日から復帰だ」
零の背筋が伸びる。
「任務は?」
加藤は窓の外を見る。
遠くに封鎖地区の建物が見える。
「封鎖地区の定期パトロール」
「妖魔の残党がいる可能性がある」
「大規模戦闘はないだろうが――」
零を見る。
「油断するな」
零は敬礼する。
「了解しました」
「平井隊長の第13小隊との共同任務になる」
平井隊長と聞いて、安心する自分がいる。
「あとな…C級異能者を2名付ける」
「C級ですか…」
「そうだ。戦力にならんということは、俺も理解している。しかし…こうも負傷者が出ると人員の補充が追いつかないんだ…」
零にも、特異隊としての苦労はわかっていた。
数カ月前までは、B級異能者でも対処できたが、最近の妖魔は明らかに強くなっている。
そのため、『中級妖魔』と言う呼び方を使うが、今ではA級異能者でも太刀打ち出来ない妖魔が現れている。
「了解しました。昼間の定期パトロールなら、C級のいい勉強にもなると思います」
「そう言ってもらえると、少しは気持ちが楽になるよ…。すまんな、負担をかけて」
「いえ。戦力を増強していただき、ありがとうございます」
零は、もう一度敬礼をして退室した。
気持ちが重い。
C級異能者とは、訓練生だ。
実戦経験はない。
妖魔に遭遇すれば――
足手まといになる可能性の方が高いのだ。
零は深いため息をついて、廊下を歩き始めた。
司令部を出た零は、平井に電話をかける。
しばらくコール音がした後、平井が出た。
「おう!始末書娘か」
平井が笑いながら言う。
「はい。始末書娘です…」
零も笑いながら答える。
「明日のパトロールの件だろ」
「はい。C級を2人も回されて…」
「俺もさ。C級レベルなら、むしろ居ないほうが気楽なんだがな…」
「ですよね…」
「守りながら戦うのは、意外と疲れるからな…」
2人は沈黙する。
「まあ、定期パトロールだ。ドライブして、雑魚妖魔を潰すだけだし…問題はないだろ」
「だと、いいんですけど…」
零は不安を拭えない。
「ランチャーを持って行ったら、怒られますかね」
「お前…。俺にも始末書を書かせるつもりか」
「冗談ですよ。それじゃあ、明日、よろしくお願いします」
「おう!明日な」
零は電話を切ったが、ランチャーの件は本気だった。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




