第十五章
零が目を開けると、白い天井が見えた。
病室だ。
そう言えば、昨日も病室で目を覚ましたんだ…
「あ。起きた?」
隣から聞き慣れた声がする。
「恵子…?」
渡辺は、スマホを置いて零の顔を見る。
「あんた、無茶したわねぇ。覚えてる?昨日のこと」
昨日…
たしか…。
粘糸。
崩れる瓦礫。
紫色の血。
そして…
「あ!あたし…ランチャーを…」
「あたり!退院したら後始末が大変よ」
「始末書かな…」
「あんた、ほんっとにバカね。許可無しでランチャー4発も撃って、始末書で済むわけないでしょ!公安で会議にかけられるわよ」
「そっか…。けど、恵子が無事ならいいわ!」
渡辺は、目に涙を浮かべ、
「ほんっと、バカ女…」
渡辺は涙を拭う。
「でも……ありがとう…零」
「なんだ?涙の再会してんのか」
ガートル台(点滴スタンド)を押しながら病室のドアを開けた千々和が笑いながら言う。
千々和も入院着を着ている。
「なによ!女性の病室に入る時は、ノックくらいしなさいよ!」
渡辺がムッとした表情で返す。
「悪かったよ。それより…ほら」
千々和の手には、缶ビール、缶チューハイ、ワンカップが多量に入ったレジ袋が下げられていた。
「3人とも、異能を使い過ぎてるんだ。異能の元を補充しようぜ」
渡辺と、零の目が輝く。
「さすが、千々和隊長!」
「出来る男は、やることが憎いわねぇ」
3人はプルタブを開ける。
「かんぱーい」
異能の元を喉に流し込む。
「うめー!」
千々和が声を漏らす。
「病室でお酒飲めるのは、異能者の特権ですよね」
「この瞬間だけよ。異能者で良かったと思えるのは」
3人の楽しい時間が過ぎる。
「けど…、どうする」
渡辺が呟く。
「ランチャーの件?」
零がたずねる。
渡辺が頷く。
「少しでも、言い訳できたら処罰も軽くならないかしら」
3人は少し悩むが、
「ゴジラが出て来たと言うのはどうだ?これならランチャーくらい見逃してくれるだろ」
アルコールが回った千々和が言う。
零と渡辺は顔を見合わせ、大笑いする。
「それにしましょう、千々和隊長。それなら許してくれますよ」
「男の考え方って、ほんっとガキなんだから」
3人は、空き缶の山を作っていく。
コンコン。
病室のドアがノックされる。
「開いてるよぉ!」
渡辺が機嫌良く答える。
ガチャ
入ってきたのは、加藤中隊長だった。
「加藤中隊長!?」
零は、ベッドの上に正座する。
「なんだ?病室に入ったつもりだったが、居酒屋に入ったかな」
加藤が笑いながら言う。
「はっ!異能者3人、異能を使い過ぎたため、異能の元を補充する作業に従事しております」
千々和が赤い顔で答える。
「確かに、アルコールで異能を司る脳の部分が活性化するらしいが、飲み過ぎるなよ」
「はい!」
「了解しました!」
「心得てます」
加藤は3人を見て、ニヤリと笑う。
「今回の任務、ご苦労だった。東雲隊長は休暇中にも関わらず作戦に参加してくれて…」
「感謝…したいところだが…」
3人の酔いが覚めていく。
「東雲…」
「はい…」
「特異隊のトラックから、ランチャーが5本無くなっていたようなんだが…、お前、何か知らないか」
「え…あの…」
加藤中隊長は、渡辺隊長を見て、
「渡辺隊長は、この件について何か知らないか」
「はい!申し訳ありません。自分にはわかりません」
加藤は千々和隊長を見る。
「自分も、知りません。自分達3人は現場で作戦中でしたので、装備課の、何らかの手違いではないでしょうか」
加藤は零を見て
「そうなのか…東雲隊長」
すいませんでした。
その言葉が喉元まで来ていた。
しかし…
渡辺と千々和が、庇ってくれている。
それを無駄に…
「はい。そうだと思います。我々3人は現場で妖魔掃討任務に就いてましたから」
加藤は3人を見て、
「妖魔に、銃弾ではあり得ない爆発が生じたらしいな」
「私も、それは確認しました」
渡辺が発言する。
「どうして、そんな爆発が起きたか、推測出来るか」
加藤がたずねる。
千々和が発言する。
「それは…今、我々も話合っていたのですが…。たまたま、妖魔の弱点…というかエネルギー関係の臓器にあたり、爆発したのではないかと…」
加藤は黙って聞いている。
「もちろん、ハッキリしたことは、わかりません。妖魔のことに関しては、不明な点ばかりですから…」
加藤は笑いを堪えながら、
「なるほど…理屈は通ってるな…。わかった。その話で板橋中隊長と、福留中隊長と話を合わせて報告書を上げよう」
板橋中隊長は渡辺の直属上司で、福留中隊長は、千々和の直属上司だが、任務の関係からか、見舞いに来たのは加藤中隊長一人だった。
零は言葉を失う。
渡辺、千々和が、
「ありがとうございます」
と、加藤に頭を下げたのを見て。
「あ…あ…、ありがとうございます」
と頭を下げた。
立ち上がった加藤は、零に
「いい仲間を持ったな」
と言い、
「3人とも、ほどほどにな」
そう言うと病室を後にした。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




