第十三章
「千々和隊長、『疾風の刃』はまだ使える?」
渡辺がインカムに叫ぶ。
「……あと一回が限界だ。だが本体は斬れねぇ。脚を落とすのが精一杯だ……」
声は途切れ、息も荒い。
「十分よ」
渡辺が即答する。
「行くわよ、恵子!」
「付き合ってあげるわよ、バカ女」
二人のやり取りに、千々和が慌てて割り込む。
「おい!まさか俺を巻き込む気じゃないだろうな!」
「私が『雷波』で隙を作る。その瞬間を狙って」
「任せて!」
千々和の抗議は、2人には届かなかった。
渡辺が立ち上がり、異能を解き放つ。
雷波!
怒りの雷鳴が波紋となって妖魔を襲う。
妖魔が顔を上げた瞬間、零のランチャーが火を噴いた。
妖魔の喉元が破裂し、頭部が瓦礫の上に転がる。
妖魔の倒れる振動が二人に伝わる。
「やったわ、恵子!」
零が振り返ると、渡辺は限界を迎えていた。
「零……ごめん……私…もう……無理……」
「ううん。恵子のおかげで倒せたのよ」
零はインカムに叫ぶ。
「医療班、異能者が限界値に到達。至急回収を!」
渡辺が千々和に頼む。
「千々和隊長……零の……援護を……」
「わかった。……ゆっくり休んでろ」
零が再びランチャーを構えようとした瞬間、粘糸が横の瓦礫を叩き砕いた。
破片と砂埃が舞い上がり、視界が滲む。
――あと2体。
その時、千々和の声が響く。
「異能班、誰か妖魔を足止めできる奴はいないか!」
「第6、岡崎。空間凝固を練習中です!」
「どれくらい止められる?」
「……3秒……です……」
「零、いけるか」
「十分よ」
「よし。他の隊員は岡崎と東雲の援護に回れ!」
瓦礫の陰から銃弾が飛び、2体の妖魔を牽制する。
「東雲隊長、手前の妖魔を足止めします!」
インカムに、岡崎から目標が伝える連絡が入る。
「頼む!」
空間凝固!
手前の妖魔の脚部全体が固まり、動きが止まる。
零は首元に照準を合わせ、発射ボタンに指をかける。
だが――
ランチャーが火を噴くより早く、粘糸が特異隊員を襲った。
飛び散る瓦礫が、赤く染まる。
一瞬の静寂…
「岡崎ぃぃ!!」
同期だったのだろうか。
戦友を悼む悲痛な叫びがインカムにこだまする。
空間凝固が解け、妖魔が動き出す。
発射された弾は首元をかすめ、外殻に命中した。
爆発!
外殻が吹き飛び、紫色の液体が飛び散る。
だが妖魔は倒れない。
零の背筋に冷たいものが走る。
しかし――
砕けた外殻の奥、柔らかな内部が露出した。
その瞬間。
見えない刃が妖魔の内部を走り斬る。
疾風の刃!
千々和が最後の異能で、露出した内部を切り裂いた。
重い音を立て、妖魔が崩れ落ちる。
「ありがとう……岡崎……」
弱々しい声で、千々和は届かないと知りながら礼を言った。
「千々和隊長!」
「東雲……俺も……限界だ。あとは……頼む……」
「隊長!千々和隊長!!」
インカムは沈黙した。
残っているランチャーは――あと一発
零は立ち上がると、最後の妖魔を睨みつけた。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




