第十二章
「応援要請! 負傷者二名……救出不可! 応援要請……!」
「妖魔の粘糸が……暴れていて……身動きが……取れません……!」
スピーカーから聞こえる。
悲鳴。
叫び。
応援要請。
そして、
インカムが破壊されたノイズ音。
現場隊員のインカムから、作戦指揮所のスピーカーへ。
絶望の声が流れ込んでいた。
零は震えていた。
強い……
いや、強過ぎる……
けど。
今、この瞬間も。
震えている自分とは違い、仲間は立ち上がり、戦っている。
私一人が現場に行っても……
帰る。
マンションに帰って、一人で怯える。
それでも、誰も文句は言わない。
現場に出る義務は無いのだ。
けど…
「春田さん、装備借ります!」
「え。ちょっと! 東雲隊長、まさか現場に行くなんて言いませんよね」
「ゴメン……」
「まだ病み上がりでしょ? 異能の力も弱いんじゃ……」
零はタクティカルベストを着る。
マガジンポケットに弾倉を突っ込む。
「待ってください。応援要請は出してます。中隊長に相談してから……」
「その数分が、現場の隊員には命取りになるの……」
対妖魔ライフルとインカムを掴む。
ヘルメットを探す。
――無い。
「東雲隊長!」
零はテントの外に出る。
春田はインカムに向かって叫ぶ。
「こちら特異隊指揮所。東雲隊長が現場に入る。東雲隊長は退院直後で、通常戦力としての計算は不可。援護、もしくは退避勧告をお願いします。繰り返す――」
その通信は、特異隊全員のインカムへ流れた。
「バカじゃないの、あの娘! 退院直後に地獄に飛び込むなんて!」
渡辺がライフルを連射しながら罵る。
「全くだ……。お前、アイツと仲いいんだろ? 追い返してくれよ」
千々和も射撃を続けながら言った。
「お前呼ばわりしないで!」
その瞬間。
辺りが昼間のように白く染まる。
妖魔の頭部に、白い雷が突き刺さった。
渡辺の必殺異能――
雷!
妖魔はしばらく動きを止め、
ゆっくりと倒れ込んだ。
「やるねぇ、渡辺隊長」
千々和が冷やかす。
しかし。
渡辺は肩で息をしていた。
限界に近い。
現場に向かう途中、零は停めてあるトラックの荷台に目を向けた。
『危険』の赤文字。
対妖魔装備だ。
零はライフルを置き、木箱を開ける。
中には対妖魔用の使い捨てランチャーが並んでいた。
零の目が細まる。
仕方ないーー
妖魔の粘糸が瓦礫を叩く。
一瞬、地面が揺れ、飛び散る瓦礫が凶器に変わる。
焦げた臭いが鼻を刺す。
「クソ!身動きが取れないじゃない!」
恵子が呟く。
その時。
「渡辺隊長、東雲隊長が現場に到着しました」
隊員の報告がインカムから飛び込む。
「バカ!到着させてどうするの!追い返しなさい!」
渡辺が叫ぶ。
「恵子こそ、息が上がってるじゃない。下がった方がいいんじゃないの」
インカムから、零の声。
「あんた病み上がりでしょ。さっさと帰りなさい」
その時。
渡辺の頭上で粘糸が唸りを上げた。
――ドンッ!
妖魔の首が爆発した。
衝撃波が渡辺の身体を襲う。
紫色の液体を噴き上げながら、妖魔が崩れ落ちる。
「誰だ!?ランチャーを使ったのは!」
千々和が叫ぶ。
市街地では危険すぎるため、本来、使用許可が必要な武器だ。
現場の隊員たちは、その規則に縛られながら戦っていた。
それを破って仲間を救っている奴がいる。
「私です。第15小隊、東雲が使いました」
インカムから静かな声が聞こえた。
「零……」
「東雲……」
渡辺と千々和が息を呑む。
退院したばかりの体で。
出なくてもいい戦場に立ち。
規則を破ってまで仲間を救っている。
――ドンッ!
二発目のランチャーが炸裂する。
妖魔の腹部が吹き飛び、内臓を垂らして崩れ落ちた。
「恵子!」
零が呼び掛けながら、走り寄る。
「このバカ女! 何したかわかってんの!」
「わかってるわよ! けど……これしか思いつかなかったの!」
二人は見つめ合う。
妖魔は残り3体。
零の手にあるランチャーは、残り三発。
外さなければ――
まだ戦える。
恵子の疲れた目に、わずかな希望の光が宿った。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




