第十一章
「射撃用意!」
自衛隊指揮官がインカムに叫ぶ。
妖魔の姿が見える前に、地響きが聞こえてくる。
「何よ…この音…」
渡辺が不安そうな声をだす。
「今日のお客さんは、新顔らしいな…」
千々和も、嫌な予感を噛み殺している。
ズシン!
ズシン!
ミニバンサイズのズングリした紫色の妖魔が姿を現す。
八本の脚を広げ、粘液で光る外殻を震わせながら進んでくる。
デカい…
今迄の妖魔は、大きくて3メートルくらいだったが、この妖魔は5〜6メートルはある。
「戦車がいるな…こりゃ…」
自衛隊も、最近の中級妖魔に対し、歩兵と装甲車だけでは戦力不足なのは、痛いほど痛感している。
上層部も、深刻な人的損耗を憂慮し、さらなる強力な兵器使用を政府に打診しているが、まだ認可が降りていない。
「戦車を出しても、必ず仕留められるとは限らないわよ…」
千々和の呟きに、渡辺が返す。
「撃てえ!」
銃声が一斉に炸裂した。
自衛隊の小銃、装甲車の機関砲、特異隊の対妖魔ライフルの火線が妖魔に集中するが、予想していたとおり、今回の妖魔には歯が立たない。
装甲車の機関砲が妖魔の外殻に穴を開けるが、妖魔は平然と進んでくる。
疾風の刃!
千々和の異能が迫りくる妖魔を撃つ。
風が圧縮され、見えざる刃となって妖魔へ走る。
先頭の妖魔は、八本出ている脚の二本を断ち切られ、バランスを崩し倒れ込む。
「ち。胴体切断を狙ったのに、脚二本だけかよ…」
千々和の顔に、不安がよぎる。
妖魔の身体が炎に包まれるが、直ぐに消える。
千々和の隊のB級異能者が炎系の異能を使うが、ダメージは与えられない。
突然、横から波紋のような雷が奔った。
雷波!
渡辺の異能が、妖魔を薙ぎ祓う。
「やった!」
渡辺の顔が喜びに輝く。
しかし。
妖魔はたち上がる。
身体には、電撃で焼かれた後が付いているが、致命傷にはなっていない。
「ウソでしょ…」
妖魔の外殻を覆っていた粘着性の液体が波打つ。
「全員、遮蔽物に隠れろ!」
千々和がインカムに叫ぶ。
直後。
妖魔の粘着性の液体が、何本も糸のように伸び、うねり始めた。
ヒュン!
ヒュン!
粘糸が空気を切る音が聞こえてくる。
その糸は、見る見る長くなり、大きなうねりに変わる。
ブォン!
ブォン!
空気を切り裂く音が変わる。
明らかに、硬質の物体が唸る音に。
渡辺隊の隊員が、遮蔽物から身を乗り出す。
対妖魔ライフルが火を吹く。
「止せ!」
粘糸の速さが音速を超え、ソニックブーム(衝撃波)が空気を切り裂く。
パァァァン!!
渡辺の言葉が終わる前に、大きくうなる粘糸が、鞭のような靭やかさで射撃してきた隊員の遮蔽物を打ち砕く。
飛び散る瓦礫の中に、赤い液体が混じっていた。
現場は地獄に変わっていた。
六体の妖魔から伸びた数十本の粘糸が、唸りを上げて舞い踊る。
建物を砕き、瓦礫を叩き、隊員を潰していく。
クソッ!
疾風の刃!!
ドサッ!
数本の粘糸が、瓦礫の上に落ちる。
千々和の顔に汗が浮かぶ。
この数は――さばききれない……
異能の代償が、千々和を蝕み始めていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
この話は、何十年も前から、温めていたものです。
時間潰しに読んでいただき、
「面白い」
と、思っていただければ、嬉しいのですが。
また、コメントの代わりに「◯」、「△」、「✕」でも構いませんので、評価していただければ幸いです。




