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【毎日8:10更新/完結間近!】きみが死なない、その朝まで  作者: 夜行(やこう)
最終章

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10-6『あきらめ、唇を噛み、いつものように』

四人は魔王の目の動きを追っていた。机上に落ちて、熟考しているその視線には拒むような動きも、外に溢れ出るような力もなかった。だいたい、相手が女であるということは見当がついている。けれど、迎えに行きたいという意図ばかりが浮き立って、魔王と一切結びついていないことが、まずもって不同意の原因だった。


「……(かげり)の月、七日だ」


そう言って顔をあげた男は、すくなくとも最初から一貫して漂わせていた躊躇いではなく、はっきりした決意をその身に宿していた。真剣で、誠実に見えた。それは、この男が有している美徳を発揮し、こちらに語りかけるときにするいつもの顔だった。だというのに、補佐官は目の前に座る男が、別人になったような錯覚を覚え、意識せず顎を引いていた。


魔王であるということは、ただ先代から称号を譲り受けたというだけでなく、ヴェルクサルトという男が充実し、魔族の未来を拓くだけの力量を持っているということだ。

補佐官という立場からイリアスは、人を遣るだけの仕事ではなく自ら進んで城の執務室を出て、領民のそばで仕事をすることがあった。武力は芳しくなく、知識で身を立てている自覚はあったが、領民からはよく「もっと陛下の役に立て」「早く伴侶を見つけろ」と堂々と言われる。反論しないで受けるばかりなので、叩き甲斐がないとみると、別の話題に転じる。そして最後には決まって、陛下の嫁取りの話に落ち着く。

「ヴェルクサルト様は、何をしても上手くいくのでしょうね」と、相応しい女性が現れるとみんな疑いもしない。


補佐官は、「何をしても上手くいく」という言葉が、実態からいかにかけ離れたものであるか知っていた。ヴェルクサルトという男は、魔王などと呼ばれなくてもよかったのである。

その称号を得た今でも自分の価値を低く見積もり、たえず気持ちを押し殺して生きている。律儀で寡黙な性格で、自由な時間のすべては領民のために割かれ、偉大な父の背中を追って努力していることは誰の目にも明らかだった。

もう先代と比べる者はないというのに、なぜもっとうまくできないのかと自問していることを知っている。


この男がどうすれば、豊かで、安閑な気持ちを得ることができるのか。補佐官は心の片隅にその天命を住まわせ、それを解決することが真の実務であると考えていた。


よって、補佐官は息を呑んだ。意図せず、己の天命に直面していたからだ。


(かげり)の月、七日……今となっては、出生の日ではなく、その日が俺の最初の朝となっている」


いつもは面白そうに応じるはずの時計屋でさえ、言葉を反復する時間を設けなければならなかった。――――最初の、朝と、なっている? どことなく一線を画した言い方だった。


「もしここで舌を噛み千切れば、次に目覚めるのは寝台の上だ。舌を噛み千切ったことを覚えたまま、体になんら変化はなく、噴き出した血も跡形もない。中庭に行けば、時計屋が迎えに来て、俺が死んだとは思いもしないお前が、平然と挨拶をする」


名前を出された男は、何か口にしようとしても、言葉にすることはできなかった。何故か目が痛くなり、目元をきつく絞る。紡がれる言葉の重さに反して、室内が明るすぎるからだと思った。


「時を戻るのは、いつも、死がきっかけとなる。お前たちにとっては初めてやってきた朝でも、俺にとっては数えきれないほど繰り返してきた今日だ」

「何を言っているのですか……なにか……演じておいでですか?」


声を震わせて、口の中でまだ何か呟いていた補佐官は、発した言葉の棘に傷つけられていた。主君に向ける言葉ではない。


「……何も悔いることはない」


顔をあげるように促され、補佐官の心に急に怒りが募った。「貴方は……!」握りしめた拳は、あてもない。


「遮る――」と、文官長が発言許可を求め、片手をあげた。


「陛下、今日の予定の取り消しを申請なさってください。また、私を含めた四人全員の都合も取り消したいのです。状況を正確に把握するため、詳細な経緯をお聞かせいただきたく――時間の許す限り」


室内の光量が整えられ、水差しが用意された。緊急の会議で籠もると従者や事務官らに伝えて、呼び鈴を鳴らさない限り、外からの中断を禁じた。その間、事務官への指示に席を立った補佐官と文官長以外、席を立つ者も、何か言い分を発する者もいなかった。

廊下に人の気配がなくなると、「続きを」と文官長が促す。全員の顔を眺め、最後に補佐官を見た。席に戻るときも、何かを押しのけて歩くようなことはなかった。平静を装っているが、事務官への口頭指示はいつもより格段に少なかった。






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