第八話棄てられ続け
それを目の当たりにして、クリスカさんはその後の言葉に詰まります。
しばらくして決意を固めたのか瞬きを一つ。あくまで星空を意識しながら、綴ります。
「本当に嫌なら、言わなくていいの。私が勝手に始めたことだし、血を吐くような苦痛だったら、無理強いはしない。けれど、自由人な私でも良ければ、話を聞かせてほしい」
ならば、話してあげましょう。
「——私、吸血鬼の方々に棄てられたんです。二年間、雇われては棄てられてを繰り返して、あなたと出会いました」
感情が声音を揺さぶって、けれども淡々と語り始めていました。
「自分で言うのはちょっと恥ずかしいんですけど、給仕とかは誰にも負けない自信がありました。求められることを忠実にと、小さい頃から教わっていましたので」
視界がぼやけて、焦点が定まらなくなっていました。綺麗な星空も模様を変えていて、そこで初めて、まだ知り合って間もない人の前で泣いているんだと気が付きます。
「使用人としては精一杯頑張っているつもりでした。多分、性格や仕事に不備はなかったと思います」
思う、というのは実際に関わってきた吸血鬼の主様や他の使用人たちがどのように感じていたか、確かではなかったので曖昧にしました。
クリスカさんは相槌を打って訝ります。
「ずっと棄てられ続けて、見かねた家族が実家の使用人として働かせるために連れ戻そうとあの列車に乗ったんです。そしたら、貴方が横に座ってきた」
「ふーん。さっきの虚無はそれ?」
「……はい」
「綺麗事を言って、貴方に奮起してもらおうとは思わないけど、諦めてしまうなんて少し勿体ないじゃない?」
「勿体ないですか。そうかも知れません」
肯定はします。勿体ないと思います。けれど、持て余さなければならない理由もあります。
それは不可逆的で、天は私に何かの恨みでもあったかのような、その訳をボロボロ落ちる涙の中で、吐露しました。
「私の血が、すべていけないんです。その、みんな不味いって吐き出すから」
吸血鬼はその名の通り、血を糧にして生きる種族の方々です。そのため、安定した血の供給が不可欠となります。
いつから始まったのか、正確な文献や記述などはなくその発端は定かではないですが、血の供給者を使用人として雇う文化が彼らの中には根付いています。古来より人間の生活に深く馴染んできたのも、こういった人間と吸血鬼の共存関係が成立していたおかげとも言えます。
その使用人として、私は吸血鬼の主様のお屋敷に仕えてしました。けれど、身体に流れる血が恐ろしいほど不味いのです。
だから、と続けようとしたとき、クリスカさんが口を挟みました。
「そんなに使用人がいいの?」
固執する必要はないと言いたいのでしょう。弾くように続けました。
「私の家系は男女関係なく、代々使用人として吸血鬼の方々に仕えてきました。その血の品質と能力を買われて、今もかなり良い生活をさせていただいています」
「吸血鬼として、私達も誇り高いわね」
「けど、私はそんな家でも落ちこぼれで、いくらお世話が上手だからって血の味が良くなければいけないのです。吸血鬼の皆様だって人間と同じで、食事をするならよりおいしい物を、食べられる味の物を求めるでしょう?」
掠れた声で私は呟きました。
吸血鬼にも使用人にも、家柄や血筋による序列や文化が当然存在します。私の家は得てして血の味に定評があり、吸血鬼でも社会的影響力の強い家へ仕えることの多い血筋でした。特に私の母は吸血鬼の始祖に最も近い『アルタリィ家』の使用人として現在も家には帰ってきません。
そしてその娘である私にも大きな期待の眼差しが浴びせられました。だから私はこの血と、家の名が嫌いになったのです。




