第七話鉄なお嬢様
するとクリスカさんが口から炎でも吐き出すのではないかという勢いで、目につく車両の解説を始めたのです。
「この電車は特急型の礎を気づいた車両で、日本全国で活躍していたの。あっちは旧型客車と言って、電車が登場する前に機関車で牽引して走っていた列車。それで向こうは——」
唖然と頷きだけを返します。その時思いました。
大丈夫に込められた意味と、ホームで歌っていた訳。あれは単に高速列車、つまりは新幹線を目の当たりにして、気分が高揚したいたんだと。
しかし、一抹の不安が撫で下ろされてほっと安堵の息を溢しました。
あの悪戯な笑みとは違う、無邪気な楽しそうな笑顔。
暗くても良く輝く紅い瞳。靡いて頬に軽く触れる艶やかなブロンドヘア。私より少し背の低い前を行く背中。
黄色くてとても明るいオーラに、眼を眇めてしまいます。けれどきっとこの方も私の血が欲しくて、こうしてるんだと詮索してしまいます。そして、その結末も——。
提灯の数が奥に進むにつれてだんだんと少なくなっていき、コンクリートで舗装された薄暗い上り坂を上り切ると、芝生に静態保存された車両が展示されている広場に出ました。
すると草の上で彼女は徐に寝転がり、空を仰ぎます。
「光莉もほら」
「寝転がるのですか?」
「えぇ。良い景色が見れるわよ」
服が汚れるので、と断ろうとしますが、しばらく逡巡して促された通りにしました。
藍黒の空を埋め尽くす名も知らぬ星々の煌き。どんな絵画よりも雄大で美しい光景に、茫然としてしまいました。
「ね?」
「は、はい!」
都会では無駄な光が多すぎることを痛感させられます。宇宙に数多存在する無数の星々が、手の届かない場所で誰の為でもなく輝きを放ち続けています。
きっと、そんな彼らに人間が理解し得る感情があったら、その一つくらい輝いている意味さえ掴めない星もあるでしょう。
きっと、今の私に重なる星が一つくらいは。
「冬は空気が澄んでいるし、新月だから星がよく見える」
「星がお好きなんですか?」
「好きよ。月が無ければ燦然と輝くから」
遠回しに月を貶めるような口ぶりでクリスカさんは言いました。
「ひと昔前までは星空で自分の現在地を確かめたりもしてたものよ」
「……現代人にはとても生きていける時代じゃないですね」
「今にも通ずるものはあるわ。全地球測位システム《GPS》だって人間が打ち上げた人工衛星の捕捉して、機械が場所を示してくれている。先人が積み重ねてきたことを機械が代替しているだけよ」
ふと横を見ると紅い瞳はじっと星を捉えていました。独特の解釈に妙な納得を覚えると、藪から棒にクリスカさんが話題を振ってきました。
「星空を見たら、センチメンタルになるでしょう。あんなに悲しい顔をしていた理由、そろそろ教えてくれても良いんじゃない?」
黙りこくる私。思わず目線を反らしました。
深淵の闇、名前も知らない星が広がる空へ、未知なる空へ。しばらく胸の鼓動と感情の激動に整理をつけて、口を開こうとしました。
「わ、たし」
その闇は不思議です。巨大な夜空を眺めていると、抑えていたはずの感情が漏れてしまいます。まるで降り注いだ一筋の流れ星が心に穴を穿つように。
そして、頬に瞬いた生温かい流星は逃れられない引力で落ちていきます。顔の輪郭を縦に切り、ナチュラルメイクがその航跡を灰黒に染めて。




