第六話吹っ切れ吸血姫
吸血鬼は夜闇でこそ本領を発揮する種族。太陽の光が煌々と照り付ける日中は、個人差こそあれ吐き気、眩暈などの知覚症状や発狂などの精神的疾患に繋がると言われています。
太陽がトラウマで光すら嫌い、真夜中ですら照明を一つも灯さず生活する方もいると聞きます。反対に太陽を克服した吸血鬼もいるので光が苦手とは限らないのですが。
それを思い出し引き留めようともしますが、駆け足がとても速い。追いかけても距離は縮まらず、ついていくので精いっぱいで、息を切らしながらようやく追いつきました。
「基礎体力もつけて貰わないと困るわね」
「へはぁ…ふぅ…どういう意味ですか?」
「ちょっとした独り言よ。最近、考え事をすると出るようになるの」
意味ありげに訝りながら私を睨み、口端を上げます。
「ささ、行きましょう」」
「名前くらいしか調べてないので、どういう場所か、詳しく知らないのですが」
「もしかして、県民なのに知らない?」
夥しい数の提灯をぶら下げて、眩い輝きを放つこの施設。光の集合体で中は殆ど見えませんし、こんな山奥のロケーションじゃロクな集客も得られないでしょう。時間も時間ですし。
それと、クリスカさんの煽り口調からのニタニタにやける顔が癪に障ります。
「入ってみたらわかるわよ。もう目の前にあるし」
「じゃあ入場券、買ってきますね」
「気が利くねぇ。あっちに進めば受付だから、頼まれてくれるかしら?」
「お任せください!」
余計な気遣いかとも思いましたが、人を使うのがこれまた上手い。さっきのムカつきも忘れて、気づけば私はスタスタと呑気にスキップなんてしていました。
そういえば、誰かと出掛けるなんて、いつ以来でしょう。
チケットを二枚、門の横に佇んでいた受付で所望すると、手慣れたようにスタンプを押して代金と引き換えられました。
ジャケットには機関車と思しき二両の青い電車が写ったフォト。ようやくこの場所の察しがついて、クリスカさんに手渡します。
「ありがとう」
「文化村というそうなのですが夜にやっているのがここしかなくて、お気に召すかどうか」
チケットにはそう記載されています。その復唱でした。
「あなたが選んだのだもの。心配ないわ」
旅先がここしかなかったとは言え、あの場から三十分とアクセスの良好さを選んだのが失敗でした。
不安でいっぱいの私をクリスカさんは何気なく励ましますが、流線型の車両をすべて新幹線と思ってしまうくらい疎いので、何か聞かれても応えられませんごめんなさい。
二人並んで正門を潜ると、宵闇に提灯のぼんやりとした灯りが鉄筋の屋内展示館やプレハブの工場、正面広場に静態保存されている鉄道車両達を淡い緋色に彩ります。
塗装の隙間から漏れる赤茶けた錆、劣化を物語る展示の数々。来場客がいることにはいるのですが、閑散としていてどこか賑わいを失いつつある印象でした。
まるで、誰もいないお屋敷みたいで、少し悲しい。
「さぁて、どこから回りましょうか……ねぇ光莉」
「あ、はい。えっと、私、初めてなのでパンフレット貰ってきます!」
逃げ出すように走ろうとしたとき、クリスカさんは袖を引っ張って止めました。
「ストップストップ。その必要は微塵もないよ」
「はい?」
「最初は案内してもらってたどたどしくも必死なあなたの姿をディナーの一品に添えようと思ったけれど、考えが変わったわ」
そんな恐ろしい野望を秘めていたんですね。ちょっと怖いですこの人——いえ吸血鬼。
「それだと私の目的に反する。だから私がガイドを務めて差し上げよう。喜びなさい」
地元を案内してほしいと言っていたのを思い出し、そもそもこのチョイスがナンセンスだったことにハッとなって気が付きました。
けれどクリスカさんは端からそんなことがなかったように、私の手を引き込んでいきます。
「まぁ、私の趣味に合う場所をたまたまでも当てたことは、褒めてつかわそう」
「え?」




