第五十三話 光莉の真相
医療系ドラマでもあるでしょう。医院長の総回診ですって行進。大名行列にも比喩されるあのシーンを連想させるように、私はお屋敷の廊下を胸を張って堂々と進んでいます。率いる人なんて一人もおらず、たった一人の闊歩ですがね。
主様の部屋はさっき外にいた使用人の方から伺い知れています。北向きの最奥、日影が最も濃い端っこの部屋。
その部屋の前に辿り着くと、ロールプレイングゲームのラスボスが住んでいそうな大きな二枚扉が出迎え、暗がりも相まってか厳しい雰囲気が醸し出ています。
程よいノック。返事はなく、扉に鍵はなくこのまま入ってしまおうか。それはそれで末恐ろしく無礼な気がするので留まりますが、何も返事がないのはどことなく不安でした。
するとギィと軋むような音で扉が内側に開きました。魔法でしょうか。
「入ってもよろしいでしょうか?」
返事はなく、それを無言の了解と受け取って恐る恐る中へ足を踏み入れます。
そこはまるで生活色のない一室でした。何もない殺風景とはまた違う、けれどきっと彼女がここにいるということが異質なほどの整然な内装。埃も被っていなければ、使用感のない机と背表紙のタイトルがまだくっきりと印字され、開かれた跡さえない虚しい本の数々。オーダーメイドの家具達も新品同然で鎮座しています。
奥行きのある部屋の最深部。窓側でシンシンと降り積もる雪を眺める純白の肌の少女。半身を起こした彼女の瞳の焦点は定まらず、虚ろ気に私の方へ振り返ると微笑して、
「いらっしゃい。来てしまったのね」
雀の囀りのような弱々しい声で言いました。
「主様、やっと会えました。主様!」
走り寄って私はベッドの前で跪くと、手を差し出して頬を一撫で。
「ごめんなさいね。こんな遠くまで」
「お気になさらず、それよりもお体は?」
「まだ……大丈夫よ」
ゆらりと垂れたブロンドから覗かせる微笑。まるで縁側で長閑に過ごす老人のような悟った表情は、私に有無を言わせず諦めさせようとも思えました。
けれど引き下がってはいけないと言い聞かせて、私は本題を切り出します。
「死ぬこと、なんで黙っていたんですか?」
直球。言い淀んで目線を泳がせた主様は、
「二度裏切ったの。この命で償いたかった」
感情を噛み殺した涼しい面立ちで掻き消されそうな声音を放つも、私は首を傾げました。
二度も裏切った、引っ掛かります。頬の手は離れ、主様の体温が遠ざかっていくと、明くる紫色の空に目をやって独白します。
「一つは死ぬことを黙っていたこと。もう一つは、あのホームにいたのは偶然じゃなくて私が図った必然なの。七見家に血の味が悪くて捨てられ続けてるって使用人候補がいるって話を聞いて、ずっと監視した。まだ父の屋敷に居た頃、目が回るほど読まされた書物の中に代々仕えた使用人もリストが記されていた。勿論、七見家の人々のこともあったわ」
「私の事も?」
「光莉がまだ生まれる前、幼少期の出来事よ。貴方の父上もまだ七見家に来る前じゃないかしら?」
「そうかもです」
「その一人、貴方のご先祖様のお話。吸血鬼の屋敷に送られた彼女は数々の家から忌避されていたの」
「忌避されていた……」
「そう。前の貴方と同じように、やっぱり血の質が劣悪だって烙印を押されてね」
親近感。そのご先祖さまの足跡を現代になって私が踏んだという感じでしょうか。
「でも、その使用人はアルタリィ家に辿り着いて天寿を全うした。なぜだと思う?」
「わかりません。主様のように味の好みが合致する方と添い遂げたのでしょうか」
「違う。吸血鬼が特殊だったんじゃなくて、その使用人が特殊だったの」
「人間側が特殊?」




