第四話 勇者
第四話です。
勇者として初めての戦いになります。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
――ゴォォォォン!!
鐘の音が街中へ響く。
人々がざわめき、兵士たちが駆け出していく。
「西門付近に魔獣出現!」
「避難を急げ!」
怒号が飛び交う。
さっきまで平和だった街が、一瞬で戦場みたいな空気になっていた。
「勇者様」
フィアが真っ直ぐこちらを見る。
「どうぞ力をお貸しください」
「いきなりかよ」
「もし魔王軍の魔獣なら、勇者様の力が必要です」
そう言うフィアの顔は真剣だった。
冗談を言っている空気じゃない。
「行こうか」
隣でマーさんが笑う。
「英雄譚の始まりには丁度いい」
「お前、本当に楽しそうだな」
「うん」
即答だった。
◇
西門へ近づくにつれ、悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああああ!」
「助けてくれ!」
兵士たちが住民を避難させている。
遠くでは建物が一つ崩れていた。
そして。
「……でか」
思わず声が漏れた。
そこにいたのは狼だった。
ただし。
熊より大きい。
黒い毛並み。
赤い瞳。
口から覗く牙は人間の腕ほどある。
その巨体が兵士を一人吹き飛ばした。
「ぐああああっ!」
兵士が壁に叩きつけられる。
「隊列を維持しろ!」
「囲め!」
だが誰も近づけない。
一歩踏み込むだけで死ぬ。
そんな圧力があった。
「グルルルルル……」
魔獣が低く唸る。
その視線が真っ直ぐこちらへ向いた。
「勇者様」
フィアが小さく言う。
「お気をつけください」
「あ」
「どうしました?」
「俺、武器持ってない」
フィアが固まる。
マーさんが吹き出した。
「勇者くん」
「笑うな」
「いや面白くて」
その時だった。
後ろから兵士が走ってくる。
「勇者様!」
手には一本の剣。
豪華な装飾が施されている。
「国王陛下よりです!」
兵士は息を切らしながら差し出した。
「勇者に授けるため用意されていた剣だそうです!」
「今持ってくるのかよ」
思わず言ってしまった。
兵士も少し困った顔をしていた。
「申し訳ありません!」
「いや、お前が悪いわけじゃない」
剣を受け取る。
重い。
でも不思議と持てた。
「グオオオオオオッ!!」
魔獣が突進してくる。
地面が揺れた。
「勇者様!」
フィアが叫ぶ。
気付けば。
俺は走っていた。
怖かった。
でも。
逃げるという選択肢が浮かばなかった。
魔獣が飛びかかる。
巨大な爪。
俺は反射的に剣を振った。
――ドンッ!!
凄まじい衝撃。
次の瞬間。
魔獣の巨体が吹き飛んでいた。
「……え?」
俺が言った。
兵士たちも言った。
フィアも言った。
「……え?」
魔獣は建物へ激突し、そのまま動かなくなる。
静寂。
数秒後。
「おおおおおおおお!!」
歓声が上がった。
「勇者だ!」
「勇者様だ!!」
「すげぇ……!」
兵士たちが叫ぶ。
フィアですら少しだけ目を見開いていた。
俺も驚いていた。
……強い。
なんだこれ。
筋力測定不能って、こういうことか。
その時だった。
「東通りにも魔獣だ!」
「まだいるぞ!!」
歓声が一瞬で消える。
兵士たちの顔色が変わった。
「なっ……」
振り返る。
遠く。
街の反対側から悲鳴が聞こえた。
「助けて!」
「逃げろ!」
「きゃああああ!」
俺は走った。
全力で。
でも。
遠い。
東通りは思った以上に遠かった。
曲がり角を抜けた先で。
一人の兵士が倒れていた。
胸を引き裂かれている。
その先では。
住民が一人。
血を流して倒れていた。
間に合わなかった。
胸が重くなる。
そして。
魔獣がいた。
今度は狼ではない。
黒い豹のような魔獣。
素早い。
母親が子供を抱きしめている。
逃げられない。
魔獣が飛んだ。
「っ!!」
俺は走る。
だが。
間に合わない。
そう思った瞬間。
銀色の光が横から走った。
――ガキィィィン!!
鋭い金属音。
魔獣の爪が弾かれる。
そこにいたのは。
フィアだった。
「下がってください」
母親を庇うように立つ。
青い瞳は真っ直ぐ前だけを見ていた。
魔獣が再び飛びかかる。
フィアは避ける。
受ける。
流す。
斬る。
一つ一つの動きに無駄がなかった。
力任せじゃない。
積み重ねた技術だった。
俺にはできない戦い方。
「はぁっ!」
剣が閃く。
魔獣の肩が裂ける。
住民たちは呆然と見ていた。
「すごい……」
誰かが呟く。
俺も同じことを思っていた。
格好いい。
純粋にそう思った。
魔獣が怒り狂う。
再び飛びかかる。
今度は俺も間に合った。
剣を振る。
轟音。
魔獣の身体が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
静寂。
そして歓声。
「勇者様だ!」
「助かった!」
「勇者様が倒したぞ!」
住民たちが集まる。
だが。
俺は少し離れた場所を見ていた。
最初に倒れていた兵士。
もう動かない。
その近くには住民の遺体もある。
助けられなかった。
強いのに。
間に合わなかった。
その時。
「ありがとうございます……!」
母親が泣きながら頭を下げた。
俺ではない。
フィアに向かって。
「子供を……助けていただいて……」
フィアは少しだけ目を伏せた。
「無事でよかったです」
それだけ言った。
俺は黙る。
確かに俺は強い。
でも。
今日助かった命は。
きっと。
フィアがいたからだ。
少し離れた場所で。
マーさんが楽しそうに笑っていた。
「なるほど」
誰にも聞こえない声で呟く。
「やっぱり君は面白い」
その言葉だけが、妙に耳に残った。
読んでいただきありがとうございます。
今回はえいじの初戦闘回でした。
そしてフィアも少しだけ活躍です。
次回は今回の戦いの続きからになります。
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