表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
革命勇者  作者: 春風英人
2/9

第二話 前例のない勇者

勇者とは、

希望なのか、それとも象徴なのか。


「革命……?」


司祭ユーラの声は震えていた。


割れた水晶を見つめたまま、

顔から血の気が引いている。


周囲も騒然としていた。


「測定不能だと……?」


「水晶が割れるなど聞いたことがないぞ……!」


「しかも概要が表示されていない……?」


兵士たちがざわつき、

神官たちも動揺を隠せていない。


貴族らしき男たちは、

まるで危険物でも見るような目でこちらを見ていた。


……嫌な視線だ。


昔を思い出す。


自然と肩に力が入る。


「勇者様……」


ユーラが恐る恐る口を開く。


「もう一度、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「何をだ?」


「本当に……女神様の声を聞いたのですか?」


「ああ」


俺が頷くと、

周囲が再びざわついた。


「ありえない……」


「歴代勇者ですら加護を受けるのみだったはず……!」


「直接言葉を交わしたなど……」


そんなに変なことなのか。


女神本人は、

割と普通に話してたけど。


「……で、この革命ってなんなんだ?」


俺がそう聞くと、

ユーラは苦しそうに首を横に振る。


「わかりません」


「分からない?」


「オリジナルスキルは勇者ごとに違います。しかし通常は概要が表示されるのです」


ユーラは割れた水晶を見る。


「例えば『炎熱』『魔獣支配』『思考加速』……そのように」


「へぇ」


「ですが革命は違う。名前しか表示されていないのです」


ユーラは眉を寄せる。


「それに……本来であれば勇者召喚の際には、“女神”から神託が下ります」


「神託?」


「はい。『勇者が現れる』と」


ユーラは小さく息を吐く。


「勇者召喚は莫大な魔力と供物を必要とする国家儀式です。七大国ですら、頻繁には行えません」


「へぇ」


「だからこそ勇者は国の象徴なのです」


ユーラは少し言いづらそうに続けた。


「ですが今回は……神託の内容と、勇者様があまりにも違いすぎる」


「違う?」


「本来、勇者召喚で現れる勇者は“加護を受けた者”です。女神様と直接会話したなど……記録に存在しません」


なるほど。


つまり俺は、

本来想定されていた勇者とは違うってことか。


 


その時だった。


「司祭ユーラ!」


奥から兵士が駆け込んでくる。


「王がお呼びです! 至急、勇者を謁見の間へ!」


空気が張り詰める。


ユーラはすぐに頭を下げた。


「勇者様。こちらへ」


「あー、分かった」


歩き出そうとして。


ふと視線を感じた。


見る。


転生の間の端。


黒いローブを深く被った人物が、

壁にもたれながらこちらを見ていた。


顔は見えない。


ただ。


なぜか、

笑っているような気がした。


「……?」


目が合った。


その瞬間。


黒ローブは小さく会釈だけして、

人混みの奥へ消えていく。


「勇者様?」


「あ、いや……なんでもない」


気のせいか。


そう思いながら、

俺はユーラの後を追った。


長い廊下を歩く。


赤い絨毯。


巨大な柱。


窓の外には、

見たこともない街並み。


本当に異世界なんだな。


「勇者様」


歩きながら、

ユーラが口を開く。


「本来であれば、まずは休息を取っていただく予定でした」


「でもそうじゃなくなった?」


「はい……」


ユーラは苦笑する。


「正直、王国側も混乱しています」


そりゃそうか。


前例のないことだらけだったらしいからな。


「ただ」


ユーラは少し真面目な顔になる。


「勇者様がどのような力を持っていようと、我々にとって希望であることに変わりはありません」


希望。


またその言葉か。


今まで、

そんなふうに言われたことなんてなかった。


少しだけ。


胸の奥がむず痒かった。


 



 


やがて、

大きな扉の前へ辿り着いた。


兵士たちが左右に並び、

緊張した空気が漂っている。


「勇者様。こちらが謁見の間です」


ユーラがそう言うと、

巨大な扉がゆっくり開かれた。


中は広かった。


赤い絨毯が真っ直ぐ伸び、

その先の玉座には、

壮年の男が座っている。


王様。


たぶんそうなんだろう。


その隣には、

銀色の髪を後ろで束ねた少女が立っていた。


歳は俺と同じくらいか、

少し下くらい。


腰には剣。


王女、というより騎士みたいな雰囲気だった。


「面を上げよ、勇者」


王が静かに口を開く。


思っていたより、

ずっと落ち着いた声だった。


「私はこの国の王、レグルスだ」


「あー……えいじです」


さすがに王相手にどう喋ればいいのか分からない。


けれど王は気にした様子もなく、

俺を真っ直ぐ見つめていた。


「聞いた。女神の声を聞いたそうだな」


「ああ」


「そして測定不能のステータスに、革命というオリジナルスキル」


王は一度目を閉じる。


「正直に言おう。前例がなさすぎる」


やっぱそうなんだな。


「だが」


王の視線が鋭くなる。


「我々には時間がない」


空気が変わった。


「魔王軍の侵攻は年々激しくなっている。すでに国境付近では複数の街が滅びた」


王は静かに続ける。


「さらに近年、周辺国でも勇者召喚の動きが活発化している」


その声色は落ち着いていた。


だが。


どこか焦りが混じっている気がした。


「勇者の存在は民の希望となる」


王は玉座で指を組む。


「そして国の象徴にもなる」


その言葉だけ、

なぜか妙に引っかかった。


「勇者よ」


王は俺を見る。


「お前には魔王を倒してもらう」


その言葉に、

俺は少しだけ考える。


正直、

実感はまだない。


でも。


あの女神の顔だけは、

なぜか頭に残っていた。


「……分かった」


王は静かに頷いた。


そして隣に立つ少女へ視線を向ける。


「こちらは第二王女、フィアだ」


少女が一歩前へ出る。


青い瞳が、

真っ直ぐこちらを見ていた。


「フィア・レグルスです」


淡々とした声だった。


その青い瞳からは、

まるで光を感じなかった。


「本日より、あなたの護衛を務めます」


護衛。


その言葉に、

少しだけ引っかかるものを感じた。


まるで。


護衛兼監視だと言われているみたいだった。


「フィアは王国でも指折りの剣士だ」


王が言う。


「勇者を守るには十分だろう」


「……そうか」


フィアは何も言わない。


ただ静かに、

俺を見ていた。


値踏みするみたいな目だった。


まるで。


本当に世界を救えるのか、

試しているみたいに。

フィアはまだかなり感情薄めです。

ここから少しずつ変わっていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ